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第189話
終業後、他の人がいる所では話がしづらい、という事で…熊田さんの部屋にやって来た。
マンションの最上階、4LDK、広い。
「熊田さん、実家暮らしですか?」
「いえ、一人です」
え!
こんな広いのに?
「バツイチとか…あ、すみません…変な事聞いて」
「はは、婚姻も離婚もしてない独身です。この家は昔俺が株で儲けた金で買ったんです」
「うわ…凄い…」
この人にそんな特技が…!
そう聞いてから見回すとファンシーな物はひとつも無く、むしろ殺風景。
飾りも置物も無しで至ってシンプル。
「こちらに座って下さい」
ダイニング…広っっろ。
十二畳以上あるよ…。
ソファーにローテーブル、床にはふかふかの敷物かよ。
俺は上着を脱ぎ、指示されたソファーに遠慮なく腰を下ろした。
「何にも無いんで、コレどうぞ」
お、ビールとチーズ。
「悪いな」
プシュッとフタを開け、アルコールを喉に流し込む。
「ふはーッ!美味い」
熊田さんも桐谷さんもビールに手を付けた所で本題に入った。
「それで、“浅井ファンクラブ”って何だ?」
場の空気が澱む。
「浅井さんを遠くから愛でて、情報を共有する会って感じです」
熊田さんが上目で俺をチラチラと見た。
「何だそれ?楽しいの?」
「でなきゃしませんよ」
「うへー…で、何で俺?こんなサラリーマン何処にでもいるだろ?」
「そんな事ありません!浅井さんは!」
…突然桐谷さんが大きな声でそう言った。
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