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SS1-2 『 井上光希生 』
「浅井、実行委員やってるだろ?」
「浅井なんて奴、いないって」
そう言うと丸は豪快に笑った。
「はは、知らないのか!五組の佐東とチェンジしたんだよ。部活が忙しいからって!」
…部活?
進学校の二年のこの時期なんて、ほぼ引退してんじゃん?
呆れた顔をしていたであろう俺の顔を見て、丸は鼻で笑った。
「な、だから言ったろ?スゲーいい奴って」
「ああ…」
国宝級のレア、だ。
丸との雑談を終えて俺は再び校内巡回に戻った。
あちこちの教室を覗きほぼ全てを回った後、腹が減ったので模擬店に寄った。
「事代堂、一皿」
背の高いこの男はクラスメイトの事代堂。
部活の模擬店で今日はずっと鉄板と格闘している。
「どうぞ、三百円です」
熱々のお好み焼きからほわりと立つ湯気。
「まけてよ」
笑顔で値切ってみた。
「はは、三百円です」
同じく笑顔でまけない事代堂。
「チッ、しゃーねーな」
ポケットから小銭を取り出してコイントレイにジャラっと置いた、が、百円玉が一枚転げ落ちた。
「あ、ヤバ!」
コロコロと転がる百円玉は鉄の蓋の隙間から側溝に落ちた。
「あ〜…コレ開けるのか…」
見下ろした側溝は蓋の隙間から落ち葉が入り込んでいて、この中を手探りで探すのかと思うと本当にガッカリだ。
これからお好み焼き食べるのに手を汚すの、ヤダ。
それに側溝の蓋、重いんだよ…。
たかが百円、されど百円。
側にしゃがみ、蓋に手を伸ばした。
「少し下がって」
頭の上から降ってくる声。
「あ、あ…」
見た事のない生徒が俺が開けようとした鉄の蓋を持ち上げた。
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