231 / 304

SS1-5 『 井上光希生 』

浅井を知れば知るほど“ いい人 ”だと思った。 誰かがやらなければならないちょっと面倒な仕事は大抵やっている。 三年生になって、人づてに「卒業対策委員」になったと聞いた。 情報源は丸。 ま、大した事はしないらしいけど。 なんたって受験生だし。 卒アルやらなんやらを取り纏めるただ面倒な役割だ。 ·····それなら俺もやればよかったな… 「何だよ、やりたかった?」 ちなみに俺のクラスは丸が担当だ。 このままエスカレーター式に大学に推薦が決まっているから、要するに他のやつよりは暇なのだ。 「いや、いい…どうせ遠くから見てるだけだし」 そう、俺は浅井に声を掛けられぬまま…ただ姿を見ているだけで半年過ごした。 「これからも見続けるよ…」 「…そっか。ってか井上も面倒臭い男だねぇ。とりあえず友達にでもなっときゃいいのによ」 「ホント、それな」 俺はきっかけさえあれば友達になれるんだ。 …きっかけさえ… そしてきっかけのないまま迎えた卒業式。 …そんな気はしてた。 そもそも登校日も減ってくるし、授業も全コマ出席って事も無いし、クラスは違うし。 「あー写真ぐらいいっしょに撮りたかったナ…」 式が終わり、丸と並んで校庭に出た。 「じゃ、撮ろうぜ!」 俺の手を掴み、走り出す丸。 「ちょっ!危な!」 今来た方に逆流し、人並みをかき分ける…。 校舎近くで浅井は教員と立ち話をしていた。 「浅井!写真撮ろうぜ!」 丸の声に驚きながらもふにゃりと笑う浅井。 ·····か…可愛い…。 「センセ、撮ってよ」 「いいぞ。並んで」 丸がポケットからスマホを取り出して手渡した。 「ほら、笑って!」 カシャッと音を立て、丸と俺と浅井が笑う。 今日は最高な日だ! 俺はこの日を忘れない。

ともだちにシェアしよう!