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されどそれは苦難の日々 1

「はぁ…」 何にも変わった事の無い、いつもの平日。 出勤して、仕事して、たまには外で飲んで、それから自分の部屋に帰る。 毎日、同じ。 今は付き合ってる奴もいないし、特定の誰かと頻繁に連絡を取り合ってる事もない。 学生の頃から数えて五人の女の子と付き合った。 どの子も可愛くていい子だったけど、告られて付き合い始めたせいなのか「私ばっかり梶君の事が好き」と責められて皆去って行った。 俺の事が“ 好き ”なんだろ? じゃあ、それでいいじゃん? 見返りを求める“ 愛 ”なんてどうかと思うよ? 「好きな奴と付き合えるんだからそんな事言うなよ」 俺はそう思っていた。 …そう、思っていた、のだ。 俺が入社して三年目に初めて後輩が出来た。 いつもニコニコして、誰にでも愛想がいい。 「梶さん。あの、お忙しい中すみません…」 恥ずかしそうに伏せ目がちでそう話し掛けてくるこの男、浅井修司。 綺麗な顔と優しすぎる物腰。 控えめ…と言うよりは謙虚過ぎる姿勢。 どれも新鮮だった。 「分からない事は何でも聞いてくれ」 そう言うとぱぁぁぁ…と表情が明るくなり「はい!」なんてお手本のような返事。 もしかして、コイツ俺の事好きなんじゃね? 相手は男だが、そう悪い気はしなかった。 こんなに可愛い後輩が出来て俺の気分は盛り上がらない訳がない。

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