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されどそれは苦難の日々 5
「梶さん、なんでいるんですか?」
席に着くなり吠えるワンコ、もとい遠藤。
「話があるなら…聞くよ」
俺はしれっといい先輩の体で言葉を吐いた。
「…白々しい…」
あからさまに不貞腐れる遠藤に俺は内心嬉しくてしょうがない。
浅井とサシ飲みなんざ十年早ぇーんだよ!
「三人で美味しい物食べましょうよ」
俺と遠藤の水面下での牽制を知らない浅井は俺達に気を使って酒と料理を注文した。
店員がビールを運んできてとりあえず乾杯。
くぅっ!浅井が目の前にいるだけでビールが美味い!
「ところで遠藤の話って何かな?」
浅井の罪作りな問いかけに遠藤は明後日の方を向いた。
「あーそれ。まぁ、今度でいいです」
よっしゃぁぁぁー!
心の中で大きく掲げるガッツポーズ!
ミッションコンプリート。
遠藤の下心封じ込め成功!
ジト目の遠藤を肴にして、俺は美味いビールを飲んだ。
「すいません、ちょっと御手洗行ってきます」
俺と遠藤がこぞって浅井にビールを勧めた結果だろうな。
浅井がトイレに席をたった。
「遠藤、話とやらはいいのか?」
「何の事です?」
…こいつ…とぼけてやがる…。
「あのなぁ…」
「おっと、すみません」
しらを切る遠藤にイラついて声が高くなった時、脇を通った客が俺の肘に当たった。
「大丈夫でしたか?」
「はい…」
一目でイケメン判定される顔立ち。
浅井の後を追うように店の奥に消えていった。
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