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されどそれは苦難の日々 6
「梶さんこそ俺と浅井さんのサシ飲み、邪魔しに来ないで下さい」
「何の事?」
「白々しい…」
「浅井に酒勧めて酔っ払わせてアレコレしようって思ってたりして…まさかなぁ?」
「ふふ、考え過ぎですって」
茶番劇場で冷えきったテーブル。
「浅井、遅いな」
店の奥から一向に姿を見せない。
「俺、見てきます…」
遠藤がテーブルに手を付いて腰を上げた時、その視線が一点に向いていた。
それを辿ると…背の高い男が浅井を担いでこっちに向かっていた。
「浅井さん、あなた達と飲んでましたよね?」
こいつ…同じ会社の…。
「ああ…」
「個室で眠ってました。このまま連れて帰りますからカバン取って下さい」
言葉の端々に怒りが見える。
「ちょっと待て!俺達と飲んでたんだ。俺が送る」
「あなた方には任せられません」
「いや、でも…」
「僕は幼馴染みです。子供の頃からしゅうちゃんを知ってます。いいですね」
そう言い切ってくるりと背を向けた。
上背があるせいか、浅井を担いでいても余裕で歩いている。
はぁ、無理やり押し切られた形で、浅井を渡してしまった。
「眠っちゃうほどには見えませんでしたよ…ね」
「あぁ。足取りもしっかりしてたし」
「…今日の所は解散、ですか…ね」
「…そうだな…」
主役が奪われ、俺達も解散となった。
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