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されどそれは苦難の日々 8
遠藤の奴が浅井に告ったらしい。
「俺、浅井さんからの返事待ちなんで」
得意げにそう言った遠藤を殴ってやろうかとも考えたが…なけなしの理性が待ったをかけた。
「…選ぶのはお前じゃない」
そう、決定権を持っているのは浅井だけ。
遠藤なんかより俺の方がずっと浅井を大事にする。
年上だし包容力だって負けてない。
だが浅井にアプローチしたくても遠藤の二番煎じ感が払拭できず、俺は行動に出られなかった。
…浅井は何でもそつなくこなすから、とりいる隙がないんだよなぁ…。
チャンスを待ちながら、かっこ悪い姿だけは見せないように気をつけた。
「梶さん、定例会議の報告書、俺がやりましょうか?」
「何だよ、気持ち悪いな」
遠藤の機嫌が良すぎて俺は背筋が薄ら寒い。
「勝者の余裕、って事ですよ」
…何!
「…どーゆー意味だ?」
「…浅井さん、すっごく可愛いく鳴くんですよ。知ってます?あ、知らないですよね」
「ま…さか…」
血液から温度が無くなってしまったように身体が冷たくなった。
でも吹き出す汗は滝のようで冷えた体にまとわりつくシャツが気持ち悪い。
「報告書大丈夫そうなら別の仕事しますね」
…もう、遠藤が何を言っているのか…耳に入ってきてはいても理解が出来なかった。
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