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されどそれは苦難の日々 9

「…浅井さん、すっごく可愛いく鳴くんですよ」 遠藤の口から発せられたその言葉。 俺は瞬時に理解が出来なくて暫し唖然…。 その後はもう仕事が手に付かなくて、平然と仕事に取り組む浅井を気にしてチラチラと盗み見た。 浅井は頬を摘んでいる…。 何だよ…そんな可愛い事するなよ…。 遠藤とアレコレしたんだろ? 俺、諦めなきゃダメなやつ? ウジウジと悩んで胸が苦しい…。 …こんな気持ちのままでいるなら、いっそ直接浅井に聞いてみた方がいいのか…? ダメなら諦める。 ダメじゃないなら… 浅井宛のレターケースをぐっと掴んだ。 「ほら、よっ」 浅井に向かって缶コーヒーを投げた。 「ありがとうございます」 難なくキャッチした浅井にベンチに座るよう促し、俺は浅井のすぐ隣に腰を掛けた。 …落ち着かない。 …まるで告る前の子供のようだ。 両手を背もたれに掛け大きく息を吸い、ふぅっと吐き出す。 よし、言うぞ。 回りくどいような聞き方はしない、ストレートに… 「浅井…遠藤とデキてるの?」 瞬間、浅井の口からカフェラテが吹き出した。 綺麗に円錐を描いている。 …うわ、これテレビで見るやつ…。 「…んなわけ無いです…」 浅井は羞恥からか頬が赤く染まり、唇にはカフェラテの雫。 「な…」 俺はその味を確かめたくなって、浅井が拭う前に唇に噛み付いた。

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