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されどそれは苦難の日々 10
軽やかな音が鳴り通話ボタンを押す。
「はい、人事部、梶です」
内線で掛けてきた相手は…尾川。
「はい、浅井ですね。少々お待ち下さい」
転送ボタンを押して浅井を呼んだ。
「浅井〜。二番に内線」
「はい、ありがとうございます。もしもし、浅井ですが…」
クソッ…!
遠藤の次は尾川かよ!
とにかく浅井を狙っている奴らは多い。
ボヤボヤしてらんねぇ。
油断してたら浅井を狙ってる奴らに持っていかれる。
仕事をしながらアレコレ考えても何も思いつかず、浅井の事を気にしながら仕事をしているせいか仕事の進捗はイマイチで定時に近い時間に退勤する浅井の背中を見送った。
「梶くん、僕もう帰ってもいいかな」
「大丈夫です。お疲れ様でした」
こんな日に部長まで早々と退勤かよ。
「あ〜何だかな…」
さっきまで浅井が座っていた席を見て、思わずため息が出た。
「梶さん、おセンチですか?」
「は?んな事ある訳ないだろが」
「指咥えて見てるだけなんて…ふふ」
…遠藤…マジムカつく…。
浅井がいないせいで思いっきり不機嫌な顔が出来る。
遠藤は俺の顔色なんか少しも気にしないで話を続けた。
「あのシステムの尾川さん…怪しいですよね…。絶対浅井さん狙ってます」
「…」
言わないが、俺もそう睨んでる。
構内を連れ立って歩いている姿を今日も見た。
チクショウめ。
何でこんなに敵が多いんだよ!
「じゃあ、お先に失礼します」
え…?
…遠藤まで先に帰りやがった…。
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