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されどそれは苦難の日々 17

きっといつも通りに浅井は出勤してくるんだ。 そしていつも通りに仕事をする。 俺と遠藤に関してだってきっとそうだ。 あいつは何があっても自分一人で抱え込んで消化しようとするんだ。 俺が無理やり浅井に乱暴したんだから俺を罵ってくれてもいいのに。 浅井は絶対に相手を傷つける事は、しない。 分かっている。 俺を受け入れる気が無いのならせめて傷を抉るくらいして一生俺を記憶に留めて欲しい。 それから… 「梶くん、ちょっと、いいかな」 いつの間にか部長が俺の脇に立っていた。 相変わらず存在感が…微妙だよな…。 「…はい」 「どうしたの?心配事でもあるの?」 部長は廊下に設置されている自販機にコインを投入し、ボタンを押した。 ガゴンと音を立て飲み物が落ちる。 「何があったのか知らないけど…死にそうな顔してるよ」 「あ…いえ…そんな…」 「君がそんな風になるなんて…よっぽどだね」 俺が死にそうな顔? …俺がそんな顔する権利なんて…。 「俺は…その、俺が傷つけたんです」 「そうなの?ちゃんと謝った?」 「一応…」 「そう。なら相手が許してくれるのを真摯に待つしかないね」 …真摯に… 「すみません。ありがとうございます」 「いいんだよ」 部長は俺にホットココアを渡して後ろ手に手を振り戻って行った。 モ部長…俺の事気づいて…。 「俺が被害者面してどうする!」 俺は自分で自分の顔をパンッと張った。 「よし!」 気合い充分。 戻って仕事だ! …浅井、体大丈夫かな…。

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