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されどそれは苦難の日々 24
昼飯が済んでも浅井がまだ働いている(であろう)仕事場に戻るに戻れず、会社の外に出てブラブラと歩いた。
「コーヒーでも飲むかな…」
普段一人では立ち寄らない流行りの喫茶店。
喫茶店と言っていいのかすら分からないファストフードのような店はメニューに載せてある商品名が呪文のようだ。
「何になさいますか?」
「…えっと…、……コーヒー…」
「ホットドリップコーヒーMサイズでよろしいですか?」
「は…はい…えっと…」
「ミルクと砂糖お付けしますね」
明らかに困り顔をしていたであろう俺に、…店員は優しかった。
お金を払ってコーヒーを受け取り、店内の空いている席に腰を下ろす。
「はぁ」
ため息なんか出したって、どうにもならない。
「あ〜あ、気が紛れるような事、ないかなぁ…」
ちょっとだけ仕事が忙しくなるとか、ちょっとだけ浅井と話が出来るとか。
「…無いわ、無いない」
砂糖とミルクを入れてマーブル模様を覗き込めば浅井のちょっと困ったような顔が浮かんだ。
「…考えるだけ、…か」
あの日の事は漠然としか思い出せないけれど、告った俺に絶対ダメだと言わない浅井の優しさ。
「人の情けに生かされてんなぁ…あちッ…!」
ぼんやりしてカップを傾け、熱い液体に舌が火傷する。
「そろそろ時間だし、これはこのまま持ち帰って仕事するか」
コーヒーに焼かれた舌をヒリヒリさせて、俺は会社へと戻った。
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