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されどそれは苦難の日々 27
電車で十駅なら、近距離通勤になるだろう。
坂上と最寄り駅の改札を出て、目的地に急いだ。
無断欠勤二日目でお宅訪問となったのは二十五歳男性。
ウチの会社には半年ほど前から勤めている。
体調を崩しているか、仕事(もしくは人間関係)が嫌になっての出勤拒否だろう。
履歴書を見た限り持病は無さそうだから…家で倒れてるってのも考えにくい。
…いや、思い込みは良くないな。
携帯で周囲を検索しながら坂上と部屋を探した。
「あそこか…?」
込み入った路地を入った先、アパートの外階段が見えた。
「…コーポ桜ヶ丘…ここだ」
「えっと…二階の八号室…角部屋か」
外側から見る限り恐らく1K単身者用の住居のようだ。
早足で階段を上り、チャイムを鳴らす。
「…ま、これくらいじゃ出てこないよ…な」
ドンドンとノックよりは大きな音をさせて扉を叩いた。
「難波さん!いらっしゃいますか!坂上です!」
…出てこない。
留守なのか、出られない状況なのか。
背中に嫌な汗が滲んだ。
「どうする?管理会社に連絡して…」
坂上がそう言いかけた時、俺は何気なくドアノブに手を掛けた。
「あ…鍵開いてる…」
…これ、刑事ものでよくあるアレだ…。
いわゆる第一発見者。
「入ってみる?」
俺は無言で頷いた。
ゆっくりと扉を引き、中を覗いた。
玄関にはスニーカーとサンダルが乱雑に…ひっくり返っていた。
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