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されどそれは苦難の日々 28

「あの〜難波さん?いらっしゃいますか〜?」 恐る恐る部屋の奥に向かって上擦った声を掛けてみるが反応は無い。 狭い玄関の向こう、廊下兼キッチンの奥に居間があるようだ。 履物は散らばっているが台所は片付いており荒らされた感じも無くて、最悪の事態が頭を過る。 だが行かねば。 坂上と顔を見合せ、お互い頷いた。 靴を脱いでそっと部屋にあがり込み、奥の部屋に進んで行き儀礼的に声を出す。 「開けますよ〜……難波さん?」 引き戸をそろりと開けると血飛沫…いや、そんなものは微塵もなく室内は台所同様にきちんとしていた。 「あ〜…とりあえずは大丈夫そうだな、梶」 「まてよ、…コレ…」 既に安心仕切っている坂上はどこ見てんだよ! 「ベッド…盛り上がってる…」 壁にぴったりとくっついて配置されているベッドには不自然な盛り上がり。 どう見ても人が入ってんだろ。 視線で訴えるも坂上は顎で俺に布団を捲れと言う。 仕方ない、腹を括るか…。 「し…失礼しま〜す…」 自分でも分かるくらいに逃げ腰・へっぴりで、布団を掴んだ。 そろっと捲ると見えたのは足。 うつ伏せになっているのか、足の裏が見える。 「ひいぃっっ…!」 「何で坂上がビビってんだよ!」 「だ…だって…脚…」 みえちゃったもんはしょうがない。 いや、むしろ人がいない方が後々面倒だろが! 「えいっ!」 思い切って勢いよく引っ張ると…人一人がうつ伏せになっていた。

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