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されどそれは苦難の日々 30
「本当に申し訳ありませんでした」
難波さんは怠そうにしながらも俺たちに向かって丁寧にお辞儀をした。
ぐったりしていた時は気が付かなかったが…なかなかのイケメン…。
身長はさほど高くはないが一重の切れ長の目が弱々しく微笑んでいる。
無駄なものが無い身体つきはムキムキ感を無くしたボクサーのようだ。
坂上の擽りによって目を覚ました難波さんは、飲まず食わずで散々泣き散らかしただけだと言い張り救急車を拒否。
だが体は弱っているようなので救急車呼びますよと脅してタクシーで病院に連れて行き、脱水と疲労との診断を受けた。
医師から一晩入院を勧められたのだが、それも拒否してその場で点滴を受けすぐに家まで帰ってきた。
「入院しなくて大丈夫だったんですか?」
「脱水だけなんで…。あの…本当に…すみません…」
「何があったんですか?差し支え無ければお話を聞かせて下さい」
報告書にも書かなきゃならないし。
いや、何があったかただ知りたいだけかも。
「恥ずかしい話なんです…。恋人に…振られたんです…」
「あぁ…それは…」
聞いといて何だが、返す言葉が無い。
「それは…辛かったでしょう」
「辛かったのは振られた事じゃなくて…」
「……?」
「そもそも付き合ってるって思ってたのが…俺だけだったんです…」
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