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されどそれは苦難の日々 32
「…え?俺ぇ?」
坂上の声が驚きで裏返る。
「前からいいな、って思ってたんです。俺…尽くしますよ。飯も作れるし掃除は得意です!」
難波さんはいつの間にか前のめりになって坂上の手を両手で握っている。
「坂上さんは和食と洋食どっちが好きですか?俺は洋食の方が好きなんですけど家庭料理なら何でも作れるしワイシャツのアイロンがけも得意だから生活は快適になりますよ。俺と試してみませんか」
あれ?
もう元気になってんじゃん。
「何を試すの?その…俺は女の子の方が…」
「とりあえず友達からでいいんで、お願いします!出会いのチャンスは逃したくないんで!」
普通は差し出された手を握る(もしくは握らない)んだろうけど、もう握っちゃってるし…これってどうよ?
「…はぁ…」
「うわ!やったー!」
完全に飲まれてる。
「これで俺、また会社に行けます!」
強引に押し切られる形で…友人になったみたいだが…俺には関係ないから ま、いっか。
「それじゃ俺はそろそろ失礼しますね」
立ち上がって先に部屋を出る算段をする。
「待て!俺も!」
「坂上さんはお茶でもどうですか?少し俺の話を聞いてくださいよ」
「い…いやぁ…仕事があるし…」
「ちょっと位いいじゃないですか。何なら味見してもいいですよ」
「味見?」
「俺の…!」
「ひッ…」
迫る難波さんに腰が引ける坂上。
さて、マジで会社に戻ろ。
難波さんも元気になった事だしもう問題は無いな。
「難波さんのアフターケアよろしく」
「梶!俺を置いてくなよ!」
「はは」
俺は笑って一人で難波さんの部屋を出た。
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