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午前11時

 覚醒間近になっては堕ちるを繰り返していた有本咲夜が、ようやく瞼を開いた時、辺りは物音一つせず、人の気配もしなかった。 「……夢?」  瞳だけをゆっくり動かし辺りの景色を伺うが、シックなグレイで統一された部屋には全く覚えが無い。とりあえず、寝かされている大きなベッドから降りようと少し動いてみると、途端身体を痛みが襲い、咲夜は小さな呻きを漏らした。 「夢……じゃない」  徐々に明確になる記憶に、咲夜はガタガタ震えだす。昨日起こった事の全てが本当なのだと理解が出来ると、すぐにここから外に出ようという結論に思考は達した。 「服、着ないと」  痛む身体を動かそうと、口に出して自分のしなければならない事を命令する。 「あっ」  しかし、ベッドの端まで動いた所でその行動も終わりを告げた。右足の足首に、枷が付けられていたからだ。 「これは……なんだ?」  革製のそれは五センチ以上の幅があり、留め具の所にガッチリとした南京錠がついている。更にはそこから頑丈そうな鎖が奥へと延びていて、シーツを捲って確かめてみるとベッドの脚の部分に付けられた金具へしっかり繋れていた。 「……なんで?」  考えてみても答えは出ない。おととい出勤した時は、こんな事になるなんて思ってもみなかった。 「っ!」  呆然と、鎖を掴んで眺めていると、部屋のドアが開かれたから咲夜は身体を震わせた。もし、記憶の全てが夢じゃないのなら、この部屋の持ち主は―― 。 「起きてたのか」 「……恭」  怖々動かした視線の先、無表情に立つ男の姿に、どうしようもなく胸が騒いで咲夜は唾を飲み込んだ。 ~ prologue end ~

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