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らしくない事をしたと思った。だから、手遅れになる前に、自ら手を引いたのに――。
高校時代、恭は誰とも関わりを持たず、常に一人で行動していた。一歩外に出れば違う世界を持っていたのだが、学校内で問題を起こすような真似はしなかった。
“ヤクザの組長の子供 ”というのが恭の生まれた環境で、小学校や中学校では、自分に媚びるか遠巻きにする相手しか存在しなかった。
父親は、問題を立て続けに起こす恭を叱りはしなかったが、中学三年生の時、高校から県外へ行き、大学を卒業しろと命じてきた。彼の真意は分からない。ただ、自分が極道の子供であるということは隠せと厳命された。
(……面倒だった)
対等な友人関係を作った事など一度もない。将来トップに立つのが既に決まっている人生だから、そんな物は必要ないと恭は信じて疑わなかった。
(だけど……)
『邪魔しないから、隣に座っていい?』
そう声を掛けてきた生徒に、自分の隣を示した時から、少しずつ恭は変わった。地味で目立たぬその生徒は、毎日恭の隣に座り、黙って本を読んでいた。
(いつからだろう?)
言葉を交わし始めたのは。
いつの間にか、咲夜と会話をするようになり、同じ大学へ行きたいという彼を自分の家に招いて、柄にもなく勉強を教えた。
(いつからだった?)
彼に邪な欲望を抱き始めたのは。
温厚な彼につい苛立って意地悪な言葉をぶつける度、困ったように笑う表情に、僅かに震える長い睫毛に、腹の底にある黒い塊をぶつけたい衝動に駆られた。その頃からはっきりと己の性癖を自覚した。
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