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「な……に?」  一瞬理解が出来なかったが、良く見れば……包帯の隙間から点滴の管が伸びていた。 「起きたか?」 「……っ!」  呆然と腕を見つめていると、頭上から……突然声が降ってくる。少し視線を上へとずらすと、スーツ姿の恭がこちらを無表情に見下ろしていた。 「あっ……」  驚きの余り目を見張るけれど、そんな反応は完全に無視して、恭は咲夜の右手を掴み、鍵で拘束具を外す。そしてそのまま背中を支え、上体だけを起き上がらせると、咲夜の隣へ腰を下ろし、サイドテーブルに置かれた食器からスプーンで何かを掬い取った。 「口を開け」  感情の読めない声音に逆らう気力は既に無い。  命じられるまま口を開くと、冷め切った粥が口の中へと入ってきた。飲み込めば、三日ぶりの食物に胃がドクドクと動き出すのが分かる。 数回それを繰り返し、要らなくなった咲夜が首を振った所で恭は手を止め、テーブルへと食器を戻すと、今度は咲夜の体を倒して唇を開かせた。 「んっ……」  今度は何をされるのかと……怯えるばかりの咲夜は細かく震えるけれど、驚いたことに恭は歯ブラシで咲夜の歯を磨き始める。 「お前、いつも食べたらすぐ、歯ぁ磨いてたろ」  言われればその通りなのだが、本当に意味が分からなかった。歯を磨く彼の動きは決して上手な物とは言えないし、これまで散々自分を陵辱した男だと分かっているが、それでも彼に優しくされて心は嬉しく思ってしまう。 「泣くな」 「……ん、うぅ」  声は決して優しくない。いつまた変わるか分からない。そんな事は、頭では良く分かっている。分かっているけど――。 「お前を一生、解放するつもりはない。だから、生かすのに必要な面倒は見る」  そう冷たく告げられて、まるで崖から落とされたみたいに心音は急に煩くなり、顔は血の気を失うけれど……決して絶望だけでは無い感情が胸の奥にある事に、咲夜自身、気付けていないし、それを掘り下げる余力も無かった。

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