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真悠はなぜ走るのか2

久しぶりの夜のランニングは少し暑かった。どんどん夏に差し掛かってきていてるのだ。 昔のように町を駆け巡り、公園でインターバルを挟む。 休憩で公園のベンチに座ろうと向かう。すると、入口でかがんでは走る、かがんでは走る・・・という反復練習をしている人影があった。 見たことあるようなすらっとした人影。近寄ってみると、真悠がスタートダッシュの練習をしていた。 「…真悠」 「…!充希!」 充希は少しためらったが目を離せなくなってしまって声をかけた。 真悠はぜえぜえと荒い息を立てていたが、充希に気づくと嬉しそうにこんばんはといった。 「なんの・・・練習?」 「スタートダッシュ!今度新人戦があるんだ。俺初心者だからスタートダッシュもうまく出来なくて」 恥ずかしい・・・と照れる真悠。 それを見て、充希ははたと気がついた。 そっか、彼はまだ陸上を始めたばかりだ。三年間経験を積んできた充希とは違う。やったことないことだってたくさんあるし、初めてやっていきなりできるということは早々ない。 彼にも出来ないことがあるんだ。そして努力することがあるのだ。 当たり前なことなのに自分にめいっぱいで他人のことが見えていなかった。 充希はおそるおそるだが、真悠にはっきりと言った。 「俺でよかったらやり方教えるよ」 充希は真悠にスタートダッシュのコツを伝える。真悠はたどたどしい充希の説明もよく聞いて、フォームなどを確認した。充希がスタートの合図にぱちんと手を叩く。勢いよく走りこんだ真悠は一発で完璧なスタートダッシュを仕上げあげてしまった。そこには真悠のポテンシャルの高さを感じ、自分とはやはり違う人間だと感じてしまう部分はあった。しかし、真悠は充希が教えてくれなかったらずっと出来ないままだったととても感謝してくれた。別に誰かが教えてあげれば真悠は出来るようになっていただろう。それでも真悠の感謝に充希は少しだけ救われた。 充希は休憩している真悠に尋ねた。 「なんで陸上始めたの?」 汗をタオルで拭いていた真悠は、少し考えるそぶりをして「充希が走ってたから」と笑って答えた。 「おれ…?」 「充希は知らないかもだけど、俺充希がランニングしてるとこよく見かけてたんだよね」 「えっ」 充希は顔を赤くした。暗いなかだし一人で走っているから誰も気に留めていないと思っていた。見られていたとなると次第に恥ずかしくなる。 「なんか今年に入ってよく走る音が外から聞こえてきてさ。だいたい同じ時間に窓の外を見たら全速力で走っていく男の子がいて」 恥ずかしい・・・真悠と会う前は、なにも考えたくなくてがむしゃらに走りこんでいた。 「毎日、その子が家の前を走りぬけて行くのを見るたび、なんか勝手に親近感とか興味がわいちゃって。…気づいたらあの日、充希に声かけてた。水も飲まないであんなに全速力で走ってる子ってどんな子なのかなって」 くすくすと思い出したように軽く真悠は笑う。 「びっくりした。思ったより可愛くて」 「か、か・・・!?」 「もっといかつい人なのかと思ってた。それに、充希が走ると周りがキラキラして見えてくるんだ。まっすぐに体をぶつけて走っていく姿…一緒に走った時も充希の真剣な顔がすごく眩しくて好きだったな…」 そんな風に思われてたなんて…充希は真悠に少し驚いた。 全力をぶつけにいっていることは自分でもよくわかってる。加減がわからないし、全力でいかないと皆に引けを取ってしまうからだ。でも、俺をそんな風に言ったのはやっぱり真悠が初めてだ。 「だから、陸上やろうと思ったんだ。あの子みたいになれるかなって。俺も眩しく走れるかなって。 でも、同じ学校なのに陸上部に充希はいないし、忙しくなって時間が合わなくなっちゃってさ…」 すこし目を伏せた真悠の横顔は憂いて美しい。こんな時に充希はそう思った。 「だからグラウンドにいたときはとっても嬉しかった。また会えたと思って」 嬉しそうに笑う真悠に充希はおおげさだなと思った。しかし、自分も真悠に対してあのときそう思っていた。わからない嬉しさが奥底にあった。 真悠は身を乗り出して優しく手に触れてきた。 「だから充希。充希は俺の人生の憧れなんだ。充希がどんなことにも頑張っている姿をみると俺も幸せになれるし、眩しくて仕方ないんだ。充希と出会えたこと、俺はこの生きてきた中で一番幸せなんだ」 真悠も、充希の瞳の中できらきらとしていた。眩くて綺麗でお星さまのよう。充希のほうが真悠から目が離せない。それぐらい真悠は美しかった。 「充希。俺、新人戦で絶対勝ちたい…もし勝てたら俺のお願い一つ聞いてくれる?」 触れていた充希の両手を包み込んで顔の前に持ってくる。まるで流れ星にお願い事をしているようだ。 いいよ。そう口から言葉を紡ぐと、真悠はきらきらと笑みをこぼした。

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