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願い事1

真悠は新人戦で優勝した。 初心者なのに経験者をはねのけて一位になったのだ。前代未聞すぎると陸上部外でも騒ぎになっている。 真悠に直接聞く前に噂で充希は知ってしまった。 「充希!」 「ま、真悠おめでとう…1位ってほんと?」 「え、あ、うん…なんか運が良くて」 運がいいとかそういう問題ではない。充希はそんなこと良く知っている。運がいいというのはスタートダッシュの差ぐらいだ。レースは実力と精神力の強さで結果が出てくるのだ。 「それよりもさ、今度の日曜日空いてる?」 「え、あ、うん…」 「お願い、水族館一緒に行こ?」 新人戦の1位なんかどうでもいいように、この前言っていたお願いごとのほうを真悠は言い出した。 (水族館?別にいいけどなんで?) 真悠は充希の返事を聞くと嬉しそうに予定を立て始めた。 真悠の価値観は依然としてわからないところがある。この前までは勝ちにこだわっていたようにも見えたが、今はすっかり目の前のお菓子に夢中な子供だ。お菓子をもらうためにテストを頑張った子供。その子供は頑張った結果はいらないのだ、と100点の書かれたテスト用紙をあっさりごみ箱に捨てた。100点が取れない充希のいる前で。 ****** 「あ、真悠おまたせ」 「充希~こんにちは」 礼儀良く挨拶する真悠は淡い水色のシャツをTシャツの上に羽織っていた。黒スキニーが真悠の足の長さを見せつける。背の高いシルエットが強調され顔の小さい真悠はモデルにしか見えない。 (駅前で待ち合わせしなければよかった…) 人通りが多すぎて皆真悠を見ている。一方で遅れてやってきた充希は寒がりであるため夏に近づいていても薄手のパーカーを着ていて中学生みたいな格好だ。恥ずかしすぎる。 真悠と並ぶと引き立て役にしかなれない自分の外見にまたすこし気持ちがブルーになった。 「真悠、早速だけど水族館いこ。人多いみたいだし」 「そうだね」 そういって、真悠と並んで歩きだす。真悠とは夜町内ランニングに付き合ってもらったことしか学外での関わりがない。今日が初めての真悠との遊びだった。 今日は晴天で日曜日なため人が多い。水族館は大通りの方を歩いて行った方が近いため、どんどん人が増えていく。真悠は背が高くて位置がよくわかるが、平均身長より少し低い充希はたまに男性に囲まれると埋もれてしまう。 「充希っ」 「真悠、ごめん~…」 「いいよ、人すごいしこっち」 やっと見つけた充希は真悠に手を握られぐいぐいと歩き出される。なるべく道のわきのほうに二人は出た。 「ふぅ」 「充希、すぐ離れちゃうから手繋いでよ」 「えっ、ここら辺なら大丈夫だよ」 「だめ。絶対手離しちゃだめだよ」 そういって真悠は充希の手を握り締めると歩き出す。人が少ない方に出てきてしまったため、手をつないでるのが他人から丸見えである。男二人で手を繋いでるのなんて恥ずかしい。近くに通った女子高生が「あれ、兄弟かな?お兄ちゃんに手引っ張られてて可愛いね」なんて言われてて悲しすぎる。同い年なのに。 「真悠、ああいわれてるから…」 「ふふっ、充希の今日の恰好とっても可愛いもんね」 笑う真悠に、わざわざ可愛く選んだわけでない、環境に適した服を選んだ結果これなのだと主張するが、彼は聞いていない。結局道中、手は繋がれた状態で水族館へ到着してしまった。

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