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願い事2
何度か家族で来たことのあった水族館だったが、中学以上になってくるのは初めてかもしれない。
入口は昔に比べ随分狭く見えたが、中は改装工事されておしゃれな雰囲気になっていた。
「わぁ~昔は家族向けっぽい雰囲気だったのに、これじゃデートスポットみたいだなぁ」
券を買った真悠がチケットを差し出してくる。
「だってデートだもん」
「えっ」
驚いてる充希の様子を気づかぬふりして真悠はスタッフにチケットを渡している。
どういうことなのか聞く前に置いて行かれそうな雰囲気を察した充希は慌てて真悠を追いかける。
半分になったチケットをスマホカバーのポケットにしまう。再入場するなら半券が必要らしい。大事にしまうと、真悠の後を充希はついて行った。
「充希来たことあるんだっけ?俺初めてなんだよね、ここ」
「小学校とかで来なかった?遠足とか」
「俺、実は半年ぐらい前に引っ越してきたばっかりなんだよね。高校も名前だけ聞いたことあるから咲山受けたし」
「そ、そうなの?」
一応私立では咲山はある程度名は馳せている。最近はスポーツにも力を入れだしたらしいからそれもあってかもしれない。
案外こだわりなく学校も選んだような真悠は水槽の魚をぼんやり見ていた。
「そういえば、魚とか好きなの?」
「ん?いやべつに」
「えっ」
真悠には驚くことしかない。今日はびっくりしてばっかりだ。…いや、学校でも驚くこと多いが。
話題を振ったつもりが予想外の返答に充希は困ってしまう。ぼんやりと水槽を見ていた真悠が小魚たちの泳ぐ水槽で立ち止まった。
「わぁ、この魚、小さいのに体いっぱい動かして…充希みたい」
「なにそれ」
ネオンテトラという名の魚だ。キラキラした紅とブルーのラインが特徴的である。一匹一匹がすいすいと水槽内を泳いでいるが、ある一匹、一回り小柄な魚が一生懸命体を振って泳いでいた。
「なんでこの子、こんなに必死に泳いでるんだろうね…水槽の中なら動ける範囲って限られてるから遠くに行けるわけでもないのに」
「うーん…もしかして皆と一緒のように泳ぎたい?…それとも自分を見てほしいのかな」
「見てほしい?」
真悠は意味が読み取れていない顔をした。
「こんな狭い水槽の中でも懸命に生きてて、それを誰かに見つけてほしいのかも…」
救い出してほしいとは思わない。この狭い水槽を出て海に放り出されたところできっとこの子はどこへ行っていいか迷ってしまうだろうから。でも体全身を使って泳ぐのは自分が生きていることを誰かに見つけてほしいから。誰かに自分の存在を気付いててほしいから。
「そう思うと、真悠が見つけてあげたからこの子は幸せかも」
そうなのかな・・・と真悠は魚を見つめる。
さっきとは違う真剣な眼差しの真悠が素直でちょっと可愛いなと充希は思った。
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