29 / 35

体育祭12

体育祭の準備は順調に進んでいた。 運動部の多いうちのクラスもど体育祭が近づくにつれてどんどん熱があがっているのがわかる。 この前の組分けでは、うちのクラスは紅組、真悠のクラスは白組で分かれてしまった。 真悠はそれについて「分かれて残念だけど、1位は取るよ」と落ち込むどころか意気込んでいた。朝や昼休みは一緒の時が多いが、体育祭の練習も部活も真悠はきちんと出ているようだ。そのため、放課後や帰りは真悠と別々で、俺もクラス練習に集中できた。 今日は体育祭目前にした1日使った予行練習だ。 期末テストも終了し、授業は一旦休みとなって、まるまる体育祭の準備期間となった。 体育着と弁当だけ入った鞄を持って家を出る。いつものように真悠は外で待っていた。 「充希、おはよう」 「おはよう」 充希はこの不自然な日常に慣れつつあった。 真悠は玄関の門の前で充希の首元をチェックする。 真悠が充希の襟元のシャツを開けると、真悠にもらったネックレスがかかっていた。 「ちゃんとつけてるね」 偉い偉いといつものように頭を撫でられる。 真悠は丁寧に充希のシャツにボタンをかけて首元を正すと、充希の手を握った。これもいつものことだ。手を繋いで学校へ向かう。 真悠の家に行ってから、真悠は毎日学校へ行く前充希がネックレスを身につけているか確認するようになった。充希の家の前でわざわざ確認するのは、ネックレスを充希がつけていなかった時すぐ取りに返させるためだ。実際充希は2度ほど家に戻らされたことがある。1度は真悠の家に行ったあの日の翌日、2度目は寝坊して遅刻ギリギリになってしまった時だ。真悠は忘れていても慌てていてもネックレスを充希に取りに帰させた。真悠の執着のようなこだわりに逆らえないことを充希はすぐに学習し、それからは絶対にネックレスを忘れないように付けている。 学校へ着き、真悠に自分の教室まで送ってもらう。充希の教室まで真悠が送ることは恒例化した。その様子をクラスメイトたちは遠くから眺めるだけで何も言ってはこない。 世界が今に徐々に慣れつつある。おかしいと思ってたことも習慣化すればわからなくなる。真悠が充希を優先して行動するのも充希は諦め半分、慣れ半分で何も感じなくなってきていた。 周りにバレないように隠したネックレスの金属同士がカチリと擦れた。 午前は全体練習でほぼ座ったり立ったりしかしなかった。 昼休憩でグラウンドから教室へ戻ってくる。充希は相変わらず親しい友達は遼ぐらいしかいなくて、教室へ戻るにも遼と二人でいた。 「そういえば、昼休みクラス会議するらしくてさ、今日は教室で食べた方がいいらしいぜ。充希、ご飯ある?」 「あ、うん。弁当があるから大丈夫」 それよりも真悠に連絡しなければ。真悠は連絡しなければ、きっと教室の前で永遠に俺を待っているだろう。充希はその思考が当然のようによぎった。 階段を上がって廊下を歩いていると、体操着姿の真悠が教室の前にいた。 「充希、お昼いっしょたべよ」 「あ、真悠ごめん。今日クラスでなんか打ち合わせあるみたいで…教室で食べるかも」 「そうなの?」 「さっき知って…すぐ伝えようと思ってたんだけど、ごめんね、真悠」 真悠に申し訳なさそうに眉を下げて上目遣いで見つめる。すると、真悠は「大丈夫、それじゃあ頑張ってね」とすんなり引いた。充希は上目遣いで真悠と呼ばれることに真悠が弱いのをを最近学習し、断りたい時やお願いをしたい時はこれを使っている。真悠はそれをされると強く出ることはできず、あっさり引き下がってくれるのだ。 しかし、何回もは通用しない。それも実証済みだ。 充希と遼は教室へと入り昼食を食べる。 いつもは真悠と食べていたから遼と久々にご飯を共にした。 食べている最中に体育祭実行委員のクラスメイトが教壇に立った。 「クラスTシャツを作る余裕がなかったので、代わりにミサンガを作りました!これをつけてみんなで頑張りましょう!」 そういうと、何人かのクラスメイトがミサンガを持って配り出す。クラスの団結力を引き締めるために同一のものを身につけようという計らいだ。 ミサンガも何個か種類があったようでミサンガを持ってきた生徒が遼に話しかけてくる。遼はどれにしようかなぁとワイワイと悩みだした。 「充希どれにする?」 「え、うーん…」 充希はあまりこだわりないから適当に手前のミサンガを指さした。赤と青の糸で編まれたものだ。遼はそれを見ると、赤と青のミサンガを二つ取った。 「同じのにしようぜ!充希とお揃い!」 そう言ってニコリと手渡してくる。 充希は遼の良い意味で他人を巻き込んでいくところが好きだった。いつも消極的な充希は輪の中に入るのが苦手だった。しかし、遼がその中に手を引っ張って連れていってくれて、充希はそれがとても嬉しかった。 どうでも良かったミサンガが、一気に意味を持って輝いて見えだす。 遼と同じように右足首にミサンガを巻き付けた。 「充希、がんばろうな」 「うん」 明るく言った遼の突き出した拳を、コツンと充希はこぶしで突き返した。

ともだちにシェアしよう!