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体育祭13

体育祭が始まった。 仕事で忙しい母は体育祭に来るのは難しかったようだ。持ち上がりの充希は中学も高校生たちと一緒に体育祭を経験しているから勝手や雰囲気はわかっている。特別感があるわけでもないから無理をしてまで来なくてもいいだろうと充希は思っていた。だから、行事に参加できないことを必死に謝る母に、来年もあるのだから次回来ればいいのだとなだめた。 去年と同じように開会式から始まり、挨拶が終わるとそれぞれ自分のチームのテントの下へ行く。今日は天気も良く、爽やかな風が吹き抜けている。 体育祭は移動や入れ替わりが激しいため、違うチームの真悠とは朝から会っていない。メッセージが朝から届いていたが、充希は忙しくて返信どころか内容も確認できていない。 先輩や中学生の競技の応援を必死にしているうちに、1年によるクラス対抗団体競技の準備時間になった。 係りの呼びかけに反応して充希や同クラス、同じチームの別クラスが集まっていく。ぞろぞろと塊についていってると「充希!」と呼ぶ声が聞こえた。声の方を振り返ると、白いハチマキをつけた真悠が後ろに立っていた。 「充希、朝は迎えに行けなくてごめんね。返信なかったから怒ったのかと思った」 「あ、ごめん、忙しくて気づいてなかった…真悠も大丈夫だよ」 それならよかったと真悠は充希の頭を撫でた。そういえばと、そのまま鎖骨の方へ手を滑らす。 「ネックレスは持ってる?」 充希はコクコクと頭を振った。落としては行けないとポッケに仕舞い込んである。ポッケから出そうとすると、真悠がわかったからいいよと上機嫌になって再度頭を撫でた。 「それじゃあ俺もう行くね、競技頑張ろうね」 遠くから係りの再呼びかけの声が聞こえる。真悠に手を振って列に充希は戻った。 団体競技は玉入れだ。高校生にしてはあっけらかんとしたものだが、走ること以外激しい運動が好きではない充希にとってはとても楽だった。 赤い玉をどんどん放り込んでいく。投げた方向が悪いのかたまに味方の赤いお手玉が膝や腕に当たった。 自分もよくやってしまうからなんとも思っていなかったが、結構強い玉が後頭部に当たった。充希はびっくりして後ろを振り返る。しかし、皆はポールの上のカゴに夢中で玉を投げていて、こちらを見ていない。充希は気のせいかと思いながら、床に落ちてる玉を拾おうとする。しかし、その時も充希に玉が投げられた。あからさまに充希だけを狙った方向の玉に、充希はさすがに気のせいじゃないと気づいた。顔をあげればくすりと笑ったクラスメイト達がいた。陸上部の奴らだ。練習中はこんなことなかったのに。充希が顔面蒼白にしていると競技が終了してしまった。急いで座るよう促される。充希は先程のクラスメイトと目を合わせたくなくて背を向けた。避けた様子を見てクラスメイトたちがまたクスクスと小さく笑った。初めて受けた経験に充希は心臓が冷えていく。気づいたらカウントは終了していて、うちのクラスは負けていた。もっと投げていればよかったとは思ったが、クラスメイト達の嫌がらせに解せない自分もいた。撤収の合図も充希は急いでその人間達と会わないよう必死に走った。

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