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体育祭14

よくよく思い返すと玉を投げてきたクラスメイトは陸上部の男子3人だった気がする。2人は高校からはいってきたメンバーだが、仲がいいのか一人は中学の同級生で、3年間一緒だった同級生にいじめを受けたということがさらに手先が冷たくなった。 一人ぼっちの充希は見つけにくいのか競技後はそのクラスメイト達が接触してくることはなかった。 競技が半分終了し、昼休憩の時間になった。充希はクラスメイト達に話しかけられないよう一目散にテントのそばから逃げた。どうせ真悠とご飯を食べるだろうと人ごみに紛れて白組のテントへと向かう。汗でぬれた赤い鉢巻を取りながらテントに行くと、たくさんの生徒たちが残っていて真悠をそう簡単には見つけられなかった。充希がきょろきょろと探し回っていると、ふともう一つとなりのテントに背の高い後姿が見えた。 横顔が見えて真悠だと充希は確信した。充希は真悠に近づこうと足を進める。しかしその時、「まゆ!!」と声をかけながら何人かの人影が真悠に近づいた。充希はその様子に足を止めてしまう。さっきの充希に嫌がらせをしてきた陸上部のメンバーが真悠に話しかけたからだ。何を話しているかわからないが、仲良さそうに真悠の肩に腕をまわしたり、真悠も楽しそうに笑っている。 充希はその様子にすっかり気持ちが冷めてしまい、真悠に一言も声をかけず白組のテントから立ち去ってしまった。 教室に大人しく戻った充希は自分の席へ向かう。教室にはクラスメイト達が談笑しながら仲良さそうにご飯を食べていた。充希はカバンごと自分の机から持ち去ると裏庭に向かった。 教室でひとりぼっちでご飯を食べたくもないし、それこそ教室にいたら陸上部の奴らと会うかもしれない。たとえ真悠がご飯を食べに誘いに来たとしても、さっきの件でなんだか彼と一緒に食べる気分じゃなくなってしまった。そこで充希は人知れず大人しくご飯を食べれる場所として裏庭の校舎裏を選んだ。裏庭には保護者や生徒たちがちらほらといたが、気にするほどではない。人間たちから少し離れた隅のところで地べたに座り込んで、充希は弁当を取り出した。ぱくぱくと母の作ってくれたおかずを口に入れる。この後もクラスメイト達に関わらず一人で過ごせるだろうか。充希は咀嚼しながら不安に思った。 「あれ?ミツキじゃん?」 下を向いていたとき突然声をかけられて充希はビクリと体を揺らした。顔をあげると、スポーツドリンクを持った遼が目の前に立っていた。 「ミツキこんなとこで食べてんの?あつくね?」 「別に大丈夫。涼しいくらい」 そうなの?なら俺も休憩しよう~、そういった遼は充希の隣に座り込む。 「あ、ほんとだ、涼しい~~」 夏も半ばになっており、日もサンサンと照っている。遼は両手を地面につけてぐいーっと体を伸ばした。 「ほんとこんな暑い時に体育祭やめてほしいよな~~」 「そうだね、でも毎年だから俺は慣れたかも」 「え?まじ?俺暑がりだから、いっつもきつい~」 あははと口を大きく開けて遼はおどけて笑う。遼の明るい雰囲気に、暗い気持ちを抱えていた充希は「遼が来てくれてよかった」と率直に思った。 遼にご飯を食べたのか?と尋ねれば親のところでご飯食べて教室へ行く最中だったらしい。しかし「どうせ休憩したかっただけだから」と遼はここで充希と残りの時間過ごすことに決めたようだ。遼は体育祭の係でもないのに明るいおちゃらけた雰囲気のせいか応援掛け声を頼られてたようで、疲れたよと笑っていた。充希もその様子は見ていたから遼に話しかける余裕はなさそうだと、遠慮していた。しかし、こうして、偶然かもしれないが、遼が話しかけてくれて今もこの場に残ってくれることがすごくうれしかった。どうしても積極的になれない充希を中学の時から大丈夫だと励ましてくれてた遼。遼に今も支えられているなと充希は感じた。 「遼、ありがとね」 「え?なにどうした?」 ふざけた感じで言っているが声のトーンは優しくて充希を馬鹿にしているわけではなかった。 「ミサンガとか励ましてくれたりとか」 「え、俺なんかしたっけ?しかもミサンガは俺に感謝するとこじゃないだろーそれは実行委員のやつに言ってやれ」 そういって髪の毛をくしゃくしゃとかき混ぜられる。いつも充希の気持ちを明るくさせてくれる遼にお礼を言いたかったのだが言葉足らずでうまく伝えられない。でも遼は嬉しそうに笑って撫でまわしてくるから、充希の気持ちは少し察してくれているのかもしなかった。 それからは充希は元気を取り戻し、遼と明るくお昼を過ごした。午後の部開始前になったので自陣のテントへと戻る。 陸上部のやつらには嫌な気持ちをしたが、自分がくよくよしていたから、そういう風にからかわれたのかもしれない。暗くなってはだめだと充希は自分を叱咤し、クラスメイト達のいるテントへ入っていった。

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