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第1話 鬼退治
————「あなたを退治に来た」
小柄で頼りなさそうな少年がお供を連れて現れた日をオニは忘れない。
「そうか、それなら早く殺してくれ」
人生に諦めたかのように、さらりと死を求めたオニにこの少年は右手で握っていた刀を地面に刺したのだった。
「罠かもしれませんよ」
そういったのはサルと呼ばれた青年だった。薄茶色の短髪はいかにも賢そうな顔をしていた。
地面に胡坐をかき両手を上げたオニは残りの2人にも目をやった。
見るからに忠実そうな男は、人懐っこそうな茶色い瞳を光らせている。動物で言えば犬といったところだろう。男にしては低すぎる背丈から言って小型犬の雑種が一番似合いそうだ。
「鬼は一匹残らず、このキジが退治します!」
勇気ある一声がオニの耳に響いた。これが最後の1人。赤青緑が混じるカラフルなバンダナをした派手な鳥のような青年だ。
「だから、さっさと殺せと言っている」
村人たちが”鬼ヶ島”と呼ぶこの小さな島に気づいたころから1人で住んでいたオニは、久しぶりの騒がしさに頭が痛くなってきた。
何が嬉しくて、朝一番でこんな騒がしい奴らに出会わなくちゃいけないんだ。
村に住んでいれば怖がられ、無人島に引っ越しひっそりと生活しようとすれば、招かれざる客がやってくる。
「オニさん、あなたは本当に死にたいの?」
「それでお前たちの気が済むならそうしてくれ」
何かがおかしいと桃は思った。
「桃太郎さん、さっさとやっちゃいましょう!」
「イヌっ!その名前で呼ぶなって何度言ったら!」
「わぁぁゴメンナサイ、桃さん!早く退治しましょう!」
待って、と桃は右手で仲間たちを止めた。そうでもしなければ、今すぐにでも襲ってかかりそうな勢いだ。でも、この3人は桃と契約を結んだ仲間たち。行けと言われれば行き、止まれと言われればすぐにでも止まる約束だ。
「オニさん、」
透き通るような色白の指先がオニに差し出された。名前の通り薄っすらと桃色に頬を染めた少年が一歩一歩距離を縮めてくる。
「話を聞かせてください」
「なんのだ。話すことなどない。お前らは俺を殺しに来た。悪とされるオニを殺せば手柄が取れるじゃないか」
褐色の肌に赤い髪をなびかせたオニは、桃が今まで出会ったどんな人間とも違った。
綺麗だ。
魅入ってしまう自分を抑えながら桃はオニの目の前に膝をついた。
「退治は後回し。その前にあなたの話を聞かせてください」
怖いかと訊かれたら桃は怖いと答えただろう。
村では人を喰う恐ろしい怪物だと言われているオニを目の前にして怖くないはずがなかった。だが、それ以上に桃は心の奥でオニに惹かれていた。何かが、オニを殺してはいけないと伝えてくる。
「断る。お前と話したところで何の得もない」
思ったより頑固だ。
桃は地面を見つめ、此方を一切見てくれない鬼に頭を悩ませた。
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