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第2話 鬼退治?

 そこで、桃はあることを思いだした。 「あ!オニさん、僕と一緒におやつを食べませんか?」 「はぁ?」      オニが独り、孤独に生きてきたこの鬼ヶ島で予想不可能な展開が今起こり始めた。 「おやつだと?」 「はい!僕、今日のためにマフィンとブラウニーを焼いてきたんですよ。オニさんもきっと気に入ります!」 「「「ちょっと、桃さん!」」」  お供の男たちが止めに入ったのも当たり前だろう。  自由奔放、天然純粋、世間知らず、の三拍子を体現したような少年と鬼退治に行くと決まってから3人は冷や汗をかく思いで桃の命を守ってきた。  ハチャメチャなことをやり出す度に後ろから恐々と見守り、桃の両親に言われた言葉を頭の中で復唱していたのだ。 ————桃太郎の命は何が何でも守る  それが3人の契約。 「ん?ちょっと休憩するだけだって」 「俺は賛成していない」 「一口だけでいいから。僕が作ったんですよ?」  オニの真似をして地面に座った桃を見てお供3人は近くの岩の傍で見守ることにした。 「ほら、これが僕が作ったブラウニー。ダークチョコレートを使ったから甘すぎないはず」  そこからの進展は早くもなく短くもないものだった。  桃お手製のスイーツを食べたオニはいつも以上に幸せな気分になってきた気がした。    気のせいかもしれない。  普段は食べられない物を口にして悦んでいるだけなのかも。 「オニさん、おいしい?」 「あ、ああ……」 正直なところ、桃のスイーツはとてつもなく美味しかった。絶妙なビター風味にバランスの取れた甘味。隠し味は塩なのだと笑う柔らかそうな唇でさえおいしそうでしょうがなかった。 「ねえ、オニさんは人間を食べるんですか?」 「食べるわけがない」 「じゃあ、なんで村を荒らして宝を盗むの?」 「村を荒らしたことも、物を盗んだこともない。それは……」 「ん?」  なんでこんなにペラペラと口を開いているのだろう。続けて言葉が下の上から転がり落ちそうだ。何年ぶりに食べたケーキが美味しかったからか、見ているだけで愛らしい桃に心を溶かされたからか。 「それは、ある人間たちがでっち上げた嘘だ」 「う、そ?」 「俺の見た目が気に食わなかったのと、それをうまく利用した奴が村にいるってことだ」  オニは、息継ぎを忘れて、生まれて初めてこの真実を誰かに語った。  それは、心の奥に隠しておくには辛すぎることだったが、話し相手のいなかったオニにはそうするしかなく、大きな身体の一部でしこりができたように、じくじくと痛んでいたことだった。 「じゃあ、町を荒らしたのはだれですか?」  この時初めて、オニは自分の手を握る小さなぬくもりに気が付いた。  おやつを一緒に食べる間に二人の距離はこんなにも近づいていたのだ。 「綿貫家の3兄弟を知っているか」 「うん、隣村で有名な人たちですよね」 「そいつらだ。村長の息子と賭博をして負けた腹いせらしい」 「それはどこで知ったんですか?」  やはり、この人の話を聞いてよかったと桃は思った。視線の向こうでお供3人たちが心配そうに見つめている。  心配なんていらないのに。  元々は一人で行くはずの鬼退治。両親がどうしてもと言うからこの3人を連れてきた。

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