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第3話 桃太郎の名案
「3人の会話を聞いた。大分昔の話だ」
「でも、村荒らしは最近も起きているよ?それはあなたではないの?」
「それもあの3人のはずだ。俺は1回目に村の奴らに追いかけ回されてから、この島を去っていない」
「それが真実なら、ここに隠れている必要はないよね」
この島は、決して住み心地の良い場所ではなかった。
緑生い茂る楽園のような島であったらオニは果実をもぎ取り、畑を耕し、魚を釣って生活していただろう。
この島は、その逆だ。
見渡す限り、緑など一切ない。黒々とした岩が島を覆い、茨が行く道をふさいでいた。
まるで、オニの心のようだ。
「隠れている必要はないが、もうあの村には戻れない」
「オニさんも、村の一員なら村に戻る権利はあります」
少し離れたところで話を聞いていた3人が慌てて立ち上がった。
桃は何を提案しているのだ。あまりにも早すぎる急展開に驚くタイミングさえ失った。
「お前は、バカか」
「え!?バカだなんて失礼な!僕は真剣ですよ!オニさん、僕と一緒に帰りましょう」
「帰ったところでどこで暮らせと言うのだ。村の人間に俺は嫌われている」
「僕の家で一緒に住めばいいんですよ!」
「お前の家で?!」
オニは真っ赤な前髪をかきあげた。癖の強い髪は丁度肩につくほど伸びている。村では珍しい褐色の肌とこの髪色のせいで、村荒らしの犯人に仕立て上げられるまでは「赤いオニ」と呼ばれ孤立していた。
自分はどこから生まれた人間でどうして他の人間たちと見た目が違うのだろうかと、幾度も幾度も悩みオニは大人になった。理由を教えてくれるはずの両親たちは、物覚えが付く前に他界していた。気づけばいつでも、村人たちに腫れ物扱いされていたオニに本当のことを教えてくれる人間などいなかったのだ。
「うん!そう!お父さんたちに話せば絶対オッケーしてくれるはず!」
待ちに待ったお泊り会が始まるような笑顔がオニの目の前で輝いていた。
「そんなことを言っても……村人からすれば俺は犯罪人だ」
「それなら、僕と住んで悪いことしてませんよってアピールすればいいんですよ!あ!そうだ!」
名案だ!と桃の黒い瞳が輝いた。ぴょんと立ち上がった少年を見上げたオニだったが、背の高くない桃の頭はそれほど上にはなかった。
「僕と一緒にケーキ屋さんを開きましょう!」
「はぁあ?!」
「ケーキ屋さんを開くのが僕の夢だったんです!オニさんとなら、絶対うまくいく自信があります!」
この島にいる人間が、一人残らず耳を疑った。
「そうとなったら今すぐ帰りましょう!」
桃はオニの手を握った。
「出発進行!」
お供の3人は、村に帰ってからが大変だと頭を抱えたという。
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