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第4話 本日開店!
『本日開店』のバナーが店の窓に飾られ、店頭にはいくつもの花束が飾られていた。夢を叶えてやっとケーキ屋を開いた桃のために、村人たちが用意してくれたものだ。
「オニさん、トフィーアップル、最後の1個だよ」
「了解。ああ、桃、レシートの紙にピンクの線が入り出したんだが……」
「もうすぐで切れちゃうってサインだね。えっと、バックアップに何個かレジの下に置いたはずなんだけどな」
「そこにあったのは全部使った気がする」
「それじゃあ、上の棚だ。僕じゃあ届かないから、オニさんが取ってね」
店内はバニラエッセンスとチョコレートの匂いで溢れている。村初のケーキ屋に浮かれた来客たちが楽しそうに笑いながらカウンターを眺め、ケーキを選びながら写真を撮ったりしていた。
スカンジナビア調の店にしたいのだと、桃が言い出した時はオニは意味が分からなかった。内装工事から最後の仕上げまでを手伝い始めて3か月、やっとここにきて白いタイルと窓に取り付けられた木の枠、ポイントに使われたパステルカラーに慣れてきたとこだ。
「いらっしゃいませ」
「わぁ、ほんとにオニがいる!」
「しー!そんなこと言っちゃだめでしょ!」
母親と買い物に来た小さな子供がオニを指さして驚いた。子供のせいではない。これは、親のせいでもない。オニを悪者に仕立てて、村人たちを苦しめた輩たちのせいなのだから。
「お母さん、大丈夫ですよ」
「桃さんとキジさんから、本当は何があったかを教えてもらったんです。この子にもしっかり話はしたんですが……」
「俺は大丈夫ですんで。それより、桃のケーキを試してみてください」
「ええ!」
桃に、半ば無理やり連れられて、村に戻ってきたオニは、決して不安なしに生活を再開したわけではなかった。
罪人、敵、悪者、怪物、邪魔者……村人の自分に対する印象は痛いほどわかっていた。オニを退治に行くはずだったのに、連れて帰ってきた桃に対して冷たく当たる人間がいることも知っている。
誰に何を言われようと、笑顔でオニを守る桃に何とかしてお返しがしたかった。自分にできることは少ない。それなら目の前にあることをやるのみだ。
「またお越しください」
オニは慣れない接客スマイルをし、ケーキを数種類購入した最後の客に手を振った。
「オニさん、閉店準備始めるよ」
「ああ、桃、疲れていないか?」
「僕は平気だよ?」
「今日一度も休憩をとっていないじゃないか」
「開店初日だもの、しょうがないよ」
働き者の桃の黒髪をオニが撫でた。自分より何センチも上にある青年の顔を見上げた桃は嬉しそうに微笑むのだった。
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