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第5話 2人の同棲生活

「えーっと、明日の分の仕込みは終わったでしょ。お金も数えたし、電気も消したし……んー、これで全部だよね?じゃあ、帰ろっか!」 「鍵は全部閉めたか?」 「うん!あとは表の扉閉めるだけだよ」 「窓もか?」  ふふっと、桃は笑った。数か月前から桃と同じ屋根の下に住みだしたこの青年は、見た目によらず心配性らしい。戸締り確認は家でも厳重に行われる。少しでも物音がすれば外に確認に行くのもオニだ。  「お前は小さくてひ弱だから俺が守る」とオニに言われたのは鬼ヶ島から帰ってきて1週間たった時だった。自分も男だから、心配する必要はないと何度も言っても、過保護とも言えるほどに世話をしてくれるオニに桃は段々と慣れてきた。  2人の関係は他人から友人、そして友人以上に少しずつ変化し始める。 「ただいまー!夕飯はどうする?」 「桃の好きにしていい」  帰る家が同じなら、帰る部屋も同じだ。  元々桃が一人で住んでいた家に、オニが引っ越してきた。最初は渋っていたオニだったが、毎日ここで生活をするにつれ、寂しく独りで生きてきた島での生活から救い出してくれた桃に感謝をするようになってきたのだ。 「またそれか?」 「好きって言ってたでしょ?僕が作ったカレー」 「ああ、言ったが、毎日同じでは飽きないか?」 「食べたくないなら食べなくていいよ」  不貞腐れた桃に、オニは慌ててスプーンを手にする。 「桃、怒らないでくれ、お前が作ったものなら何でも美味しいから」 「毎日食べたら飽きるって言った」 「それは誤解だ。冷める前に食べないか?」 「ん……」  オニのスプーンによそわれたカレーが桃の口内に広がる。自分で作っておいて絶賛するのもなんだが、いつも以上に美味しく作れた気がした。 「明日はケータリングの注文が入ってるからいつもより早く起きないと」 「けーたりんぐ、とは何だ?」 「篠田さんが長男の誕生会用にケーキとスイーツの詰め合わせを作らなきゃなの。20人分だったはず」 「忙しくなりそうだな」 「一緒にやればそうでもないよ」  ケーキ屋を開いて1日目が無事終わった。2人で良かったと桃は心から思い、これから毎日訪れる忙しい日々を夢見て、ほっと息をついた。  心配事はないのかと聞かれれば、答えはノーだ。初めて店を経営する上、オニに対して良く思っていない人間がいるのも分かっている。だが、それ以上に味方はいるはずだと桃は信じていた。

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