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第9話 本当の悪者
「ちくしょう、どこ行ったんだ」
オニもこの村で育った人間だ。迷子になることもなければ、桃が行きそうな場所だって想像できる。それなのに、どこを探そうと黒髪の少年は見つからなかった。
桃はオニが言わんとしたことを誤解し、ショックを受け走り出した。もっと上手く自分の気持ちを説明出来ていればと己を呪った。
桃は近所の公園にいた。
勢いで外に出てきたものの、遠くまで歩く気力は残っていなかった。せめて静かな公園のベンチで思いに耽ろうと思ったのだ。
小さなこの村で日が落ちた後に出歩くものはそういない。静かな夜に響くのは虫と蛙の鳴き声だった。
鬼退治に出発した瞬間からオニと店を開くまでを夢のようだったと桃は回想していた。自分が口を開かなければ、あのまま二人で楽しく店をやっていけたかもしれない。窓の1つや2つ割られても、2人で何とか解決して前に進めたかもしれないのに。
「お兄さんこんなところで何してるの?」
3人の見知らぬ男たちがこちらを見つめていた。
「おっ、ラッキー。あんた、オニの女だろ?」
「名前なんだっけ?ああ、桃太郎?可愛い顔してんじゃん、俺らと遊ばない?」
どちらかと言えば世間知らずな桃だったが、大男たちに囲まれ身の危険を感じた。
「え、遠慮しときますっ」
「つれないなー。ほーらっ!立って立って、ちょっと向こうでいいことするだけだから!」
「そうそう、オニがいないんだから、俺たちと楽しいことしようよ」
桃の両腕を男たちが掴んだ。痛みに顔を歪めた少年の肩に1人の男が腕をまわす。
「おし、行くぞ」
「いやです!放してください!大声を出しますよ!」
「おーおー威勢がいいな、お前」
「今の内大声でもなんでも出しとけよ。そのうち声が枯れるまで啼くことになるからよぉ!」
血の気が引き、桃の体は小刻みに震えた。
家を飛び出さなければこんなことにはならなかったのだ。オニがいつも守ってくれたから桃はいつでも安全だった。
「た、たすけてー!んぐぅ」
叫んだ桃の口を大きな手が塞いだ。
「本当に騒がれちゃぁ困るんだよな」
「誰かに見つかる前に、さっさとヤッちまおう」
桃の頬は涙で濡れていた。
顔に押し付けられた手のひらが汚く感じてしょうがない。吐き気と眩暈と痛みがグルグルと桃を包んだ。
「う……」
男の指が桃の服を押し上げる。
空気にさらされた肌がヒヤリと震えた。絶望感に堕ちた桃の視界は真っ暗になった。
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