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太陽に焦がれて①
「なぁ、咲夜 ぁ!
...なーんでお前、いっつもそんなに仏頂面なの?」
俺の机にドカリと腰を下ろし、同じクラスの男、塚田 陽 は小首を傾げ、聞いた。
咲夜というのは俺、小西 咲夜の名だ。
桜が綺麗に咲いている夜に産まれたから、という単純な理由で両親に名付けられた。
「...別に。」
別に仏頂面なんかしていない、という事と、別にどうでもいいだろう、という事の両方の意味合いを込め、答えた。
「うはー、エリカ様が降臨したっ!
...ごめん、俺今スニィカーズ持ってねぇんだわ。」
「...。」
思わず無言で、睨み付けた。
でもヤツは笑顔のまま、続けた。
「おっ、こっち見たっ!
...それにちゃんと感情、表に出せるんじゃん。」
太陽の光を浴びて、陽の明るい茶色の髪が金色に輝く。
...そのせいだろうか?
心底可笑しそうに肩を揺らし、ククッと笑うその姿を見て不意に、昔大切にしていたライオンのぬいぐるみの事を思い出した。
と言ってもこいつの事を、大切だなんて微塵も思えそうもなかったけれど。
「...それ、俺の机。
塚田君の机と椅子は、あっち。」
斜め前方の、彼の席を指さした。
「いいじゃーん、ケチっ!」
つん、と唇を尖らせるその仕草はまるで、小学生の子供 そのもの。
彼に聞こえるように、これ見よがしに溜め息を吐き出してやった。
「ケチじゃない。
そして机は、座る為の物じゃないから。」
尚もつまらなーい、相手してよーと騒ぎ立てる陽の事を無視して、俺は席を立った。
「ちょ...っ、どこ行くの?」
驚いた様子で机から腰をあげ、俺の後を追おうとする彼。
「トイレだよ。
...だから、ついて来ないでね。」
わざとらしいほど穏やかな笑みを浮かべ、答えた。
陽は不服そうに大きな唇をへの字に曲げ、それから俺に背を向けるとヒラヒラと手を振って、クラスの輪の中心に、当然のように入っていった。
どうせ『皆に優しい人気者の塚田君』は、『ぼっちで可哀想な俺』を放っては置けなかったとか、そういう事なんだろ?
はぁ...、うざ。...偽善者め。
この時の俺はまだ本当のコイツの事を、何ひとつ理解してなくて。
...だから無遠慮で能天気な振りをしながら、誰よりも脆く繊細なこの男に自分が溺れる事になるだなんて、ほんの少しも思ってはいなかったんだ。
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