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太陽に焦がれて③
そんな風にヤツの気紛れで始まった俺と陽の関係は、春が終わり、夏が来てもまだ続いていた。
気付くと俺はいつの間にかこの男に心を許し、そして二人一緒に過ごすこの時間を、心地よく感じる様になっていた。
「なぁ、咲夜。
...明日から、夏休みだね。」
今日も小汚ないリュックを当然のように俺の自転車のカゴに乗せ、いつもの様に駅に向かう途中、陽はポツリと呟いた。
「あぁ、そうだな。
遊び呆けてないで、ちょっとは勉強もしとけよ?
夏休みの最後の日に宿題を手伝わさせられるとか、冗談じゃないからな。」
ふふんと笑い、ちょっと嫌味を込めて言ったのに、コイツと来たら。
「あはは、そうだった。
俺には強い味方が、いるもんな。
最後の日までやんなくても、咲夜が手伝ってくれるなら楽勝じゃーんっ♪」
「...そういう意味じゃねぇよ、バーカ。」
後ろからだとその顔は見えなかったけれど、えー、と不服そうに言った陽はきっと、いつもみたいに唇を尖らせているに違いない。
風に揺れる陽の髪が太陽の光を浴びて、ライオンの鬣 みたいにキラキラと金色に輝く。
それがあまりにも綺麗で、つい見惚れていたら。
...陽は、思わぬ提案をしてきた。
「うーん...、じゃあさぁ。
お前んちで、明日から勉強見てよっ!
最終日じゃなく、序盤だったらいいだろ?」
本当に自分勝手で、マイペースな男だ。
しかも陽の家じゃなく、俺の家って。
...どう考えてもおかしいだろ。
なのにその提案は、不思議と不快じゃなくて。
だから俺はつい、答えてしまったんだ。
「あぁ...、うん。いいよ。
...じゃあ、また明日。」
「ん、また明日。後で、連絡する。
...ありがとな、咲夜っ!」
駅に着くと自転車のカゴからリュックをおろし、陽は大きな口を開け、ニッと笑った。
そして陽と交代して右手でハンドルを握ると俺は、ちょっと苦笑しながら彼に反対の手を振った。
いつも当たり前みたいに使っていた言葉、『また明日』。
それがこんなにも嬉しくて、心踊るモノだっただなんて。
陽が駅のホームを潜 って視界から消えた後も、顔がついにやけそうになるのを止められなくて、少し困惑したのはアイツには内緒。
***
その日の夜、バカみたいにカラフルなスタンプを添えて、陽からのメッセージが届いた。
『明日10時、いつもの駅前集合な!
お前んち知らないから、お迎えよろしく(っ´▽`)っ』
...ほんと、勝手なヤツ。
そう思うのに自然と上がる、俺の口角。
しかしこの、翌日。
...自分でも気付かなかった醜い欲望で、誰よりも純粋で穢れを知らない陽の事を俺は、自らの手で汚す事になる。
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