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堕ちる①

「ありがとな、咲夜。  今日は、よろしくぅ♪」  待ち合わせ場所である、駅前。  予想に反し、約束の時間よりも早く着いていたらしい陽が、いつものように能天気にへらへらと笑って手を振った。  私服姿の方は、予想通りというかなんというか。  蛍光色に近いカラフルなペンキが何色も飛び散ったような柄の、目がチカチカするほど鮮やかなTシャツ。  それに合わせているボトムスは、ラフな雰囲気の茶色のハーフパンツだ。 「ごめん。  ...まさかお前の方が先に来てるとは、思わなかったから。」  俺だって時間に遅れた訳ではなかったけれど、待たせてしまったのがちょっと申し訳なくて、謝罪の言葉を口にした。  一瞬キョトンとした感じで陽は首を傾げ、それから彼は大きな瞳をちょっとさまよわせ...困り顔で笑った。 「...さすがにこれだけワガママなお願いしてるのに、遅刻はしないよ。」  良識のある、回答。  これもまた、予想外のモノだった。 「へぇ...、そっか。  ちょっと、見直した。」  クスクスと笑い、言った。  するとアイツは不満げに、少し唇を尖らせた。 「ここから、近いの?」  陽がいつものように、リュックを自転車のカゴに放り込み、ハンドルの主導権を俺から奪う。 「歩くと、ちょっとあるかな。  ...まぁでもお前が言い出したんだから、文句言わずに歩けよ。」  はーい、と元気よく陽は答えて、またニッと笑った。 「今は俺達しかうちに居ないから、気を遣わなくていいよ。」  家に到着すると、俺の言葉に陽は、こくんと子供みたいに小さく頷いた。  その仕草はあまりにも幼く、可愛らしくて...俺はつい、クスリと笑ってしまった。 「...何で、笑うの?」  陽はまたしても唇を尖らせて、軽く俺の事を睨み付けた。  何でもないよ、とだけ俺は答えて、自身の部屋に陽を招き入れた。 「飲み物、入れてくる。  適当に座って、待ってて。」  俺の言葉に従い、陽は、ローテーブルの側に置かれた、クッションに腰を下ろした。 「...陽が俺の部屋にいるって、なんか変な感じ。」  思わず口をついて出た、素直な感想。  陽も柔和な笑みを浮かべ、答えた。 「うん、そうだね。  ...なんか、不思議な感じがする。」  何だろう?  不愉快な訳ではないけれど、今日の陽は、ちょっとおかしいというか...何かがいつもと様子が違う気がする。  でもそれはきっと、彼も俺も私服姿で。  そして今二人がいる場所が、学校や駅までの道ではなく俺の部屋だからに違いないと、安易に結論付けた。

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