7 / 30

堕ちる③

 唇と唇が触れ合うだけの、軽いキス。  でもアイツが拒絶しなかったから、それは次第に深いモノへと変化していった。  男とは思えないほど細く、そして柔らかな肢体を腕の中に閉じ込め、角度を変えながら、何度も何度も彼の口内を犯す。  はぁはぁと荒く乱れる、二人の吐息。  しかししばらくすると突然陽は、俺の事を突き飛ばした。  ...そこでようやく、我に還った。  自分でも何でそんな事をしたのかなんて全く分からず戸惑う俺の事を見上げ、怨みがましい表情で唇を尖らせて陽は訴えた。 「苦しい、咲夜。  ...息、出来ないじゃん。」  どちらのモノかわからない唾液で濡れた陽の唇から出た言葉は、予想外のモノだった。 「...突っ込むとこ、そこじゃねぇだろ。」  抱き締める力を緩め、陽の体を解放した。 「あは、確かに。  ...ねぇ。なんで俺に、キスしたの?」  潤んだ瞳で俺の事を真っ直ぐに見据え、陽が聞く。 「陽が、好きだから。」  自身の口をついて出た言葉もまた、全くもって予想外のモノだった。  でも自然と流れ出たその言葉は、紛れもなく俺の本心で。  ...無意識の内に自分の心の奥深く、閉じ込めてきた感情だと気付かされた。  陽はポカンとした感じで阿呆みたいに口を開け、俺の事をただ見つめている。  そんな彼を床に押し倒すと、再び俺は唇を奪い、そして貪った。  それでもやっぱり陽は拒絶するでもなく、かといってそれに応えるでもなく。  ...ただ人形みたいに、されるがまま、それを受け入れた。  それに少しだけ苛立ちを覚え、そのまま陽の下半身に腕を伸ばし、ハーフパンツの上から乱暴にヤツの太股に触れる。  戸惑ったように茶色の大きな瞳が揺れ、そしてそのままぎゅっと閉じられた。 「なんで、逃げないんだよ?  ...逃げないなら、最後までヤるよ?」  これ以上傷付けたくなくて口にした、脅し文句。  ...なのにアイツは俺の背中に、無言のまま腕を回した。 「何考えてんの?  ...報われない想いを抱く俺への、同情?」  肩を両手で押さえ付け、睨み付けながら聞いた。  陽は弾かれたみたいにまた瞳を開き、小さく左右に首を振った。 「...なら、何だよ?」  噛み付くみたいに荒々しく首筋に口付けを落とし、強引にヤツのTシャツを脱がそうとしたら、そこで初めて陽は俺から逃れようと暴れ始めた。  でも今更 陽の細く小さな体で抵抗されたところでそんなの、俺を更に苛立たせるだけだった。  陽の瞳からは大粒の涙が溢れ出したけれど、それを見ても暴走を抑える事が出来ず、むしろ嗜虐心を煽られた。 「泣く程、嫌なんだ?  ...ならもっと、抵抗しろよ。」  吐き捨てるみたいに言って、陽のほっそりとした、綺麗な腕を片手で床に縫い止めた。 「やめて、咲夜。  ...お願いだから。」  震える声で、陽が訴える。 「は?なんだよ、今更。  やめるわけないじゃん。  ...ホントお前は、バカだよな。」  ククッと笑い、陽の言葉は無視して行為を続けようとした。  すると陽は俺の瞳を見つめたまま、泣きながら微笑んで言ったんだ。 「咲夜になら、何されてもいいよ。  ...でも上を脱がされるのだけは、嫌だ。」

ともだちにシェアしよう!