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崩壊①
「咲夜...?」
心配そうに、陽が俺の顔を覗きこむ。
でも今はその無垢で優しい表情すらも、苛立って仕方なかった。
簡単に騙されて、手のひらの上で踊る俺を見るのは、どんな気分だった?
好きだと何度も愛の言葉を囁き、お前に溺れる俺は、滑稽だった?
...|本物の《・・・》サクヤには、どこまで許した?
キスも未経験だと言ったその言葉すらも、今はもう嘘だとしか思えない。
汚い感情が俺の心を包み込み、大好きなはずの陽の事が、同時に憎くて堪らなかった。
...深く傷付けて、捨てやったらお前は、俺の事も同じように愛してくれるんだろうか。
でもそんな醜い想いは全て綺麗に包み隠し、なるべく優しく見える様に微笑み、いつもするみたいにそっと抱き寄せた。
「何でもないよ。
...ちょっと、疲れただけ。」
「...そっか。」
陽はガサツな振りをしながら、他人の感情の変化に敏い。
納得がいった感じでは無かったけれど、この会話を俺が終わらしたがっている雰囲気を察したのか、陽は静かに微笑んだ。
「...そう言えばお前、なんか寝言言ってたぞ。」
さりげなく、探りをいれる。
でも陽は愛らしく首を傾げ、聞き返した。
「...マジで?
俺、なんて言ってた?」
本当に夢の内容を覚えていなかったのか、それとも忘れてしまっただけなのか。
...もしかしたらこれさえも、嘘なのかもしれないけれど。
そんな些細な事すらも、全て疑ってしまう自分。
もうコイツの言葉なんか、何ひとつ信じられそうに無かった。
それでもやはりこの男が自分の側から離れていってしまう事を恐れ、俺は咄嗟に嘘を吐いた。
「なんか、焼きそばパン食いたいって言ってたぞ。」
ククッと笑う俺の顔を、陽は真っ赤な顔で見上げた。
「えーっ、嘘だろっ!?
確かに、好きだけど...。
寝言でまで言うって、なんかすげぇ恥ずかしい。」
抱き締めた腕に力を込め、唇に口付けた。
それに応え、陽もまた俺の背中に腕を回す。
陽...大好きだよ。
例えお前が、嘘にまみれていたとしても。
...心が手に入らないというなら、体だけでも俺のところまで堕ちてきてよ。
そうしたらお前の望む言葉も、愛も、全部あげるから。
...だから本物のサクヤのところになんか、行かないで。
そんな風に考えているだなんて事は微塵も感じさせないよう、穏やかな笑みを浮かべ、俺はまた陽の体をそっと押し倒した。
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