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崩壊②

 陽は戸惑ったような顔で俺を見上げたけれど、そのまままた背中に腕を回した。  優しく愛撫するとコイツは、甘えた声で名前を呼んだ。  さっきまではとても嬉しかったその声が求めているのは、本当は自分ではない別のサクヤなのだと気付いてしまった今は、それが酷く哀しく虚しい。  だからもっと乱れさせて、溺れさせて。  ...言葉を発する事が出来ないほど狂わせたくて、滅茶苦茶に抱いた。  いつもより執拗に責め立て、蕩けさせて。  ...同じ名前の、別の男を思って俺を受け入れる顔なんか見たくなかったから、後ろから乱暴に陽を貫いた。  そして二度目の行為が終わると陽は、先ほど以上に疲れた様子で、気を失うみたいにして眠ってしまった。  ベッドの上で見せる扇情的な表情とはまるで異なる、天使みたいに愛らしい寝顔で俺の腕の中、健やかな吐息をたてる陽。  束の間でもサクヤの事を忘れさせてくれる相手ならコイツは、誰にでもこうやって体を開くのだろうか?  サクヤの代わりに愛してくれるヤツなら別に、俺じゃなくてもよかったんだろうか?  それに詳しい事情は分からないけれど、陽を置いて消えたサクヤが、もし戻ってきたら?  そうしたらきっと陽は、俺を切り捨ててその男を選ぶに違いない。  ...所詮自分は、偽物なのだから。  そこまで考えて、吐きそうになった。  ...そんなの、冗談じゃない。  余計な事を聞いて陽を失うのが怖くて、眠るコイツの体をただ強く抱き締めた。 ***  だけどそんな関係は、当然長くは続かなかった。  優しくしなければと思うのに、思えば思うほどうまくいかなくて。  感情を圧し殺す事が出来ず、不安な気持ちを打ち消したくて、ただ欲望の赴くまま、その後も毎日のように陽を抱いた。  そして真実を知った、約一週間後。  夏休みが終わる少し前に陽は、ヘラヘラと笑いながら言ったんだ。 「なぁ、咲夜。  ...もうこういうの、終わりにしようぜ。」  そんなヤツの姿を目の当たりにして、様々な感情が交差し、溢れ出した。 「何でそんな風に笑って、簡単に言えるんだよ...。  お前、ホント勝手だよな。  ...散々俺の事を振り回して、惚れさせて。」  その言葉を聞き、戸惑ったように陽の瞳が揺れた。 「俺さ、聞いちゃったんだよね。  ...サクヤ君 大好きって、お前が寝言で言ってたの。」  一瞬の内に青くなり、震える陽の肩を掴み、強引にその顔を覗きこんだ。 「...やっぱり、そうなんだ?」  嘘でもいいからそうじゃないと、否定して欲しかった。  でも陽は泣きながら、ただごめんと繰り返した。  ...何度も、何度も。  そんな彼の姿を見て、渇いた笑いが溢れた。

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