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記憶の欠片①
新学期を迎え、一週間が過ぎてもアイツは教室に姿を見せなかった。
関係が終わったとはいえ、話し掛けるなと言いながらも、本当に嫌いで別れたわけでは無い。
だから気にしないでおこうというのは、土台無理な話で。
なんでアイツ、来ないんだよ?
...捨てられたのは、こっちのはずだろ?
最初は苛立ちだけだったけれど、日が経つにつれ、ただ彼の身を案じるようになった。
今さら俺が心配したところでアイツは、迷惑だと思うだけだろうけれど。
最後に見た、悲しげな笑顔が脳裏に浮かぶ。
最初から全てが嘘で、あの表情すらも本当では無かったのだと、理性の部分では分かっているはずなのに。
...それでも心の何処かで、まだヤツの事を信じたい自分が残されているのに気付き、苦笑した。
「あ...、そうだ。
おーい、誰か!
塚田の家に、プリント届けて貰えないか?」
放課後、担任が大声で叫んだ。
陽の家なんか全く知らなかったけれど俺は、反射的に立ち上がり、答えていた。
「俺が、届けましょうか?」
「ありがとう、小西。助かるよ!
場所は、分かるか?
確かアイツの家、ここからだとかなり距離があるんだけど...。」
申し訳なさそうに、彼は言った。
でも俺はにっこりと微笑み、答えた。
「...場所は、ちょっとわかんないですけど。
でも遠いのは、全然平気です。
今日は時短で、授業も終わりですし。
彼の様子も心配なので、俺に届けさせて下さい。」
しかし職員室で陽の住所を聞き、正直かなり戸惑った。
陽の家は、こことは県の端と端。
...スマホでルートを確認したところ、市を跨いで電車で片道二時間ほどの場所にあった。
「何だよ、意味わかんねぇ...。
アイツは一体、何のためにここ通ってんだよ。」
担任はちょっと困り顔で笑い、言った。
「んー...。それは俺にも、分からん。
塚田ならここじゃなくても別に、どこでも選べただろうにな。」
そうなのだ。
ここが有名な、進学校とかなら分かる。
でもこの高校は県内でも底辺に近いくらいの偏差値だけれど、それに近い学力の所はいくらでもある。
それに何か、専門的な分野に特化しているという訳でもないし。
...他にもきっと家の近くに、いくらでも通える所はあっただろうに。
俺は何だか納得のいかない想いを抱えたままではあったけれど、職員室をあとにして、一人駅に向かい歩き始めた。
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