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記憶の欠片②
「あっつ...。
アイツ、よくこんな遠くから、毎日毎日通ってるな。」
電車に揺られる事、約二時間。
駅のホームを抜け、日陰のあとを追うみたいにして歩いていく。
日は既に陰り始めてはいるものの、意地悪なアスファルトが地中に溜め込んでいた熱を放出しているせいか、かなり暑い。
そんな中、急な坂道を一歩、また一歩と、踏みしめるみたいに登る。
でも登っていく中で俺は、奇妙な既視感に襲われた。
それはデジャヴと呼ぶには、あまりにも鮮明で。
...一体この景色を、何処で見たというのか?
こんな場所俺は、一度も俺は来たことがないはずなのに。
でも坂を登りきったところでこれは、やっぱりデジャヴなんてモノではなく、俺の中にある過去の記憶なのだと確信した。
この先にあるのは確か...緑豊かな、あの公園だ。
***
『ねぇ、咲夜くん...。
本当にもう、会えないの?』
自分よりも少し背の低い、口の大きな少年が、泣きながら聞いた。
『ごめんな、陽。
俺は居なくなるけど、代わりにこれ、お前にやるよ!
コイツはな、陽...最強のライオンなんだぜ?
だからもう、泣くな!』
そう言って俺が突き出したのは、大切に。
...本当に大切にしていた、宝物のぬいぐるみ。
『駄目だよ、咲夜くん。
こんなの僕、貰えないよっ!』
その子は慌てて返そうとしたけれど、それは強引に彼に手渡した。
『じゃあな、陽。
...これからは、泣いてばっかりいたら駄目だからなっ!』
***
眼前に広がるのはやはり、記憶の中にあった木々が生い茂るあの小さな公園。
二人きりの時にだけ見せてくれた素のアイツの笑顔が、幼い頃いつも俺の後ろを追い掛けていた泣き虫な少年のモノと完全に重なり合い、合致した。
「はは...何だよ、これ。
俺ずっと、自分に嫉妬してたのかよ。
...かっこ悪過ぎだろ。」
思わず、吹き出した。
それにあれだけ大事にしてたのに、手元にない訳だ。
...あのライオンのぬいぐるみ、自分がアイツにあげたんじゃないか。
なんでこんなに大切な事を、忘れてしまっていたんだろう。
でもアイツは、嘘を吐いた訳じゃなかった。
ただ覚えていたのに、俺に言わなかったんだ。
謝罪の言葉はきっと、それに向けてのモノで。
...完全なる、俺の思い違い。
でもそれも、仕方ないじゃないかとも思う。
だってあれだけ変わってしまった陽の姿を先に見せられて、あの時のあの泣いてばかりいた少年が実は同じ人間でしただなんて、誰が考えるというのか。
しかし、それならば。
...陽はなんでこの事実を、隠していたんだ?
いくら考えてもきっと、その答えは陽にしかわからない。
でもわからなければ、聞けばいい。
陽は話したがらないかも知れないけれど、俺には聞く権利がある筈だ。
笑っていたはずなのに、いつの間にか頬を、涙が伝っていた。
「陽のヤツ...絶対最初から、全部分かってた癖に。
...後で、説教だな。」
俺は目元を軽く指先で拭い、スマートフォンに写し出された地図を閉じると、真っ直ぐに前を見据えた。
だって俺はもう、知ってるから。
もう少し先にある、あの角を曲がったら。
...そこに建っているのが、陽の家だ。
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