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本当のアイツ①

 およそ十年ぶりに訪れる、アイツの家。  新しくはないものの、大きなその家の屋根は、鮮やかな赤。  玄関の横に植えられた、背の高い向日葵たち。  昔二人で登ろうとして怒られた大きな木から響く、蝉の鳴き声。  そこは時を止めたみたいに、あまりにも当時のままで。  様々な感情が混じり合い、俺はその場に立ち竦んだ。 「あれ...その制服、もしかして陽のお友達?」  声をかけられ振り返るとそこには、買い物帰りらしい一人の女性の姿。  俺のよく知る...でも記憶の中のその人よりも少し年をとった、陽の母親だった。 「...はい、先生からプリントを預かって来たので。  ご無沙汰してます、おばさん。  ...昔この近所に住んでた、小西 咲夜です。」  彼女の瞳が驚きから、大きく見開かれた。 「咲夜君って...あの咲夜君っ!?  同じ学校だったのね。  あの子、何も言わないから。」  言いながら彼女は何故か、泣きそうになった。  俺はそれに内心少し慌てながらも、気付かないふりをして曖昧に笑った。 「よかった...、咲夜君が一緒なのね。  ここ最近、ずっと楽しそうにしていたのに、夏休みが明けたらまた急に学校に行きたくないって言い出したから。」  彼女は静かに微笑み、言ったのだけれど、俺はそれを聞き言葉を無くした。  ...やっぱり陽は体調不良等ではなく、俺のせいで来なくなったのか。  それに彼女の言った言葉も、引っ掛かるモノがあった。 「またって言うのは、一体...?」  戸惑いながら、聞いた。  でも彼女は困り顔で笑い、その問いには答えず言った。 「...ありがとう、咲夜君。  陽は家にいると思うから、良かったら寄っていってやって?」  アイツに会うつもりで来たはずなのに、俺はまた少し動揺し、下を向いてただ自身の足元を見つめた。 「ね?陽もきっと、喜ぶから!」  ニッと笑うその顔は、陽にそっくりで。  俺は彼女に言われるがまま、陽の家の門を抜け、懐かしいその家に足を踏み入れた。 ***  久しぶりに足を踏み入れた、陽の家。  変わらないと思うのは外観だけでなく、中も同じだった。  強いて違いを言うならば、玄関に並べられた、陽と陽の姉のモノと思われる靴のサイズが大きくなったことくらいじゃなかろうかと思うほど、そこは変わらなかった。  二階にある陽の部屋の前まで俺を案内すると、彼女はドアを二回、ノックした。 「陽、咲夜君が来てくれてるわよ?」  一瞬の、沈黙。  その扉が開くことはなく、中から小さな、震える声だけが聞こえた。 「...何しに、来たの?」  戸惑った様子で、俺の顔を見上げる陽の母親。  ジェスチャーだけで二人にして欲しいと伝えると、彼女は少し迷ってはいる様子だったけれど、俺の願いを聞き入れ、階下へと降りていった。

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