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片翼の天使①

「まぁでも僕にも、非はあったかも知れないけどね。  何も言わず、何の抵抗もしない僕はきっと、格好の標的だったんだと思うし。」  他人事みたいにそう言うと、陽はヘラヘラと笑った。  そんな彼の顔を見て、俺は少し。  ...いや、かなり苛立った。  だから陽の頬を両手で挟み、思いきり頭突きを食らわせてやった。 「...っ!?」  頭を抱えたまま、涙目で俺の事を見上げる陽。 「お前は何も悪くねぇって、言ってるだろうが。  ...バーーーーカっ!」  そのまま強引に、口付けた。 「んっ...、咲...夜っ!?」  突然の事に動揺したように、手で俺の体を押し戻そうとする陽。  でもそれは許さず、無理矢理腕の中に閉じ込めた。 「ホント、馬鹿だよ...お前。  全部最初から話してくれてたら、ちゃんと俺、受け入れたのに。」  唇を離し、抱き締めたまま耳元で囁いた。 「だって、咲夜が好きになってくれたのは、偽物の僕で。  でも僕は君といると、いつも素の僕に戻っちゃって。  ...だから最近の咲夜はずっと、情けなくて弱い僕の姿を見て、イライラしてるのかなって...そう思って。」  あぁ...、そういう事かと思う。  言葉にしなかったから、伝えられていなかったんだ。  ...大切な事が何ひとつ、お互いに。 「そんなに俺の事、信用できない?  逆だ、逆っ!  ...俺が好きになったのは、本当のお前の方。  ちゃんと言わなくて、ごめん。  あと勝手に勘違いして、いっぱい酷い事を言って、ごめん。」  優しく頭を撫でながら、頬や額、鼻の頭、そして唇にも...順にキスを落とした。  陽の腕が、俺の背中に回された。  キスを返してくれたからきっと、全部伝わったのだろうと思い、ホッとしたのにこの馬鹿と来たら。 「咲夜はやっぱり、優しすぎるよ。  ...もうホント、大丈夫だから。」  暫しの、沈黙。  またそれにムカついたから、俺はにっこりと微笑み、聞いた。 「...もう一度、頭突きを食らいたい?」  びくんと大きく、陽の体が震える。  そして怯えたような感じで、左右にブンブンと大きく頭を振るコイツ。 「いい加減、わかれ。  あとさ、その格好。  ...色々我慢出来なくなるから、いい加減なんか着てくれ。」  そう。腕の中のコイツは、いまだに半裸。  これまで禁欲を余儀無くされていた俺には、目の毒過ぎる。 「やっぱり、汚いよね。  ...ごめんね、咲夜。」  プチンと呆気なく、俺の理性の糸が切れる音がした気がした。
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