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2.世界で一番嫌いなモノ

人はどうしてこんなにも群れたがるのか。そして、群れたら群れるだけ声がデカくなるのか。 「賑やかだねぇ」 前の席から身を乗り出して、苦笑いで言ってきたのは幼馴染の伊藤 京子(いとう きょうこ)だ。 彼女とはまぁ腐れ縁。クラスも同じで、気もそんなに合わない事は無いので休み時間位は話をする。 「ああいうのは煩いっていうんだ。ったく、浮かれやがって」 もうすぐ冬休みとクリスマスだからって。 確か今年はクリスマスイブに終業式、クリスマス当日から冬休みだったな。 ……まぁ僕にとってはどうでもいい話だけど。 「あははは、辛辣……あ、そう言えば。最近昼休みは一人じゃないんだ?」 「ん? ああ、あいつか」 教室から出る所でも見られてたかな。 空き教室は使用許可得てるし、誰と一緒でも別に構いやしないだろうに。 京子は元々細い目をさらに細めて、ニヤリと笑ってみせる。 「あの加瀬 亮二、ね。最近下級生達が昼休みの度に探し回っているのは知ってたけど……ふーん?」 「な、なんだよ……」 またこの女、妙なこと考えてるんじゃないか。 彼女はいわゆるオタク、しかもその中でも腐女子というのを自称している。つまりホモ好きってことだ。 幼馴染であっても、彼女の趣味にとやかく言うつもりもない。 だがその思考でこっちを見るのは止めて欲しいものだ。 「綾真があの時間に他人と一緒にいるなんて、珍しいなァ……って」 「おいおい、勘違いするんじゃないぞ。別に僕は、あいつが居ようが居まいが関係なくあの教室で過ごすからな! こっちが亮二を追い出すことはあっても、僕から場所を変えるつもりは毛頭ないっ!」 と、ビシッと釘を刺したつもりだったが。 彼女のニヤけ顔は収まるどころか、さらに深まった。 「あー。はいはい。もう名前で呼び合う仲ですかぁ」 「苗字が同じだから仕方ないだろっ!」 そう、同じ苗字で漢字も同じ。これもなんかムカつく。改名しろなんて言わないが、近付くなとは言いたい。 「大体、僕はああいうタイプは嫌いだね。あざといし、自分がイケメンだと自覚してる面しやがって。しかもあの手のやつは大抵……」 「リア充で陽キャ、ね」 「その通り」 今教室で騒いでる奴らと同じさ。 今世界で一番自分たちがキラキラ輝いていて、楽しい人生送ってます……なぁんて顔しやがって。 あーぁ、ほんと爆発してくれないかなぁ! あいつら。もはや騒音だぞ。 男女数人の、いわゆるスクールカースト上位の連中。女はともかく、男が気に食わないね。 「まぁ私達は陰キャですからなァ」 「ちょっと待て京子。君と一括りにするんじゃないぜ」 僕は陽キャではないが陰キャでもないぞ。 むしろ陽も陰も持ち合わせてない。つまりどっちでも無いのだ。 「で、出たぁ、厨二病」 「厨二病じゃないっつーの」 僕はただ大勢の人間と同じ空気を長時間吸って生きるのが苦手なだけだ。だから昼休み位は脱出する。 そこにあいつが邪魔しに来る、それだけ。 「ま、良いけどねぇ……でも結構意識しちゃってんじゃあないのぉ?」 「君なぁっ、いい加減にしろよ」 僕は呆れて声を上げる。 その時一瞬だけ、あの時の……変な気分を思い出して、盛大な舌打ちをした。

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