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確かに、三年生になった春、同じクラスに玲がいることを知った遥人は、クラスメイト達と同様に彼に一言挨拶をした。
「一年間よろしく」くらいは言ったような気がするが、それは単純に、権力者へと挨拶をしない人間の方が圧倒的に少なかったからだ。
――だって俺は、俺は目立っちゃいけないから……。
「嫌々なのが顔に出てた」
愉しそうに歪む唇。
さらに続けて「そう、この顔だ」と告げてきた玲に眼鏡を外され、心許なさに泣きたくなる。
「ホント、どこにでもいそうな顔。なのに、表情一つで気になってたまらなくなった。その時点で恋だと思わない?」
意味の分からないことを言いながら、綺麗な顔を近づけてくるから、横を向いて避けようとすると、おとがいを強く掴まれた。
「嫌悪って感情も、裏を返せば恋慕になるって……どこかで聞いたことない?」
頭上に縫い止められた手首へと、グッと圧力を掛けられる。唇同士が触れそうな程に距離を詰められ……予測できないことの連続に、奥歯がガタガタと鳴り始めた。
「聞いたこと……ないです。それに、俺は今泉さんのこと、よく知らないので、好きとか嫌いとか……考えたことがない」
正直な話、苦手意識はかなりあるけれど嫌いとまでは思っていない。だから、そう告げることでこの状況が少しでも好転する事を願い、遥人は必死に言葉を紡ぐが、それは完全な間違いだったとすぐに思い知ることとなる。
「そう。なら尚更、俺を知ってもらわないと」
「……んっ、うぅっ!」
間髪入れず唇を奪われ、遥人は大きく目を見開いた。
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