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「いないの?」
数回ノックの音がしてから、良く知る声が聞こえてきて――遥人は自分の体から、血の気が引いていくのを感じる。なぜ、運命はこんな時……最悪のシナリオを目の前へと突き付けるのか?
「……っ」
とにかく今は、玲が諦めて帰ることを祈るしかできない。だから遥人は、身じろぐことさえできないままに、布団の中で息を詰め、ガチャガチャとドアノブが鳴る音を悲壮な思いで聞いていた。
それも、極度の緊張に目眩を起こし、意識を絶ってしまうまでの短い間の事だったけれど――。
次に遥人が目を覚ました時、辺りは既に暗くなっていた。
ぼんやり記憶を手繰り寄せ、悪い夢にうなされたのだと結論づけた遥人だが、ちょうどその時、常夜灯の明かりが視界に入ってきたから、ここが自分の部屋では無いと気付いて瞳を大きく見開く。
「……っ!」
途端に不安が押し寄せてきて、体を震わせた遥人だが、次の瞬間降りてきた声にそれは驚愕に姿を変えた。
「目が覚めたのか?」
低く響く男の声と、額へと触れる大きな掌。ほのかな灯りが逆光となり、良く顔は見えなかったけれども、抑揚無く話す声が誰のものかはすぐに分かった。
――どうして?
「……みやもと……さん?」
恐る恐る名前を聞くが、自分でも驚くほどに声が掠れてしまっている。それでもきちんと聞こえたようで、頷いた彼は「そうだ」と短く告げてきた。
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