70 / 338

24

 消去法による選択だったが、他に選べる道もないから、無我夢中で胸へと縋れば、『もうさせないよ』と囁いた彼に震える体を抱きしめられた。  それからは……意志に反して昂る体を抑えることができなくなり、最終的には自ら玲のペニスを強請って腰を捩った。 『もう一回聞くよ。遥人の体は誰のもの?』 『……からだ? からだは……玲の……玲のもの……』 『そう、俺のだ。だから、傷なんかつけちゃ――』  フラッシュバックした光景に遥人の体が疼きだす。  思いも寄らない己の変化に、言いようのない恐怖を感じ、遥人は体を引きずるようにベッドから降りて歩き出す。  ――おかしい。こんな……おかしい。  焦れば焦るほど脚は絡まり、ほんの数歩で遥人は床へと倒れこんでしまったが、痛覚までもが麻痺ているのかあまり痛みを感じなかった。  立ち上がることに思考が至らず、そのまま遥人は這うようにしてドアの前へとたどり着く。  以前逃走を図った時にはこの向こう側に堀田がいたから、一瞬体が強張るが、それよりもここに居続けることで、自分が自分じゃなくなるほうが本能的に怖かった。 「う……くぅ」  よろけながらも立ち上がり、思い切ってドアを開けると、静まりかえった広いリビングが遥人の瞳に映り込む。  ――誰も……いない?  恐る恐る視線を動かし部屋の中を見渡せば、テーブルの上に何かが置かれていることにすぐに気が付いた。  キョロキョロ辺りを見回しながらも遥人がそこへと近付けば、ラップのかかったサンドイッチと洋服、それから眼鏡が置いてある。 「……これ」  添えられたメモに“おはよう 飲み物は冷蔵庫にある 夕方には戻るからいい子にしてろ”と書いてあるのを読んでから、壁時計へと視線を移すと午前10時半だった。

ともだちにシェアしよう!