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消去法による選択だったが、他に選べる道もないから、無我夢中で胸へと縋れば、『もうさせないよ』と囁いた彼に震える体を抱きしめられた。
それからは……意志に反して昂る体を抑えることができなくなり、最終的には自ら玲のペニスを強請って腰を捩った。
『もう一回聞くよ。遥人の体は誰のもの?』
『……からだ? からだは……玲の……玲のもの……』
『そう、俺のだ。だから、傷なんかつけちゃ――』
フラッシュバックした光景に遥人の体が疼きだす。
思いも寄らない己の変化に、言いようのない恐怖を感じ、遥人は体を引きずるようにベッドから降りて歩き出す。
――おかしい。こんな……おかしい。
焦れば焦るほど脚は絡まり、ほんの数歩で遥人は床へと倒れこんでしまったが、痛覚までもが麻痺ているのかあまり痛みを感じなかった。
立ち上がることに思考が至らず、そのまま遥人は這うようにしてドアの前へとたどり着く。
以前逃走を図った時にはこの向こう側に堀田がいたから、一瞬体が強張るが、それよりもここに居続けることで、自分が自分じゃなくなるほうが本能的に怖かった。
「う……くぅ」
よろけながらも立ち上がり、思い切ってドアを開けると、静まりかえった広いリビングが遥人の瞳に映り込む。
――誰も……いない?
恐る恐る視線を動かし部屋の中を見渡せば、テーブルの上に何かが置かれていることにすぐに気が付いた。
キョロキョロ辺りを見回しながらも遥人がそこへと近付けば、ラップのかかったサンドイッチと洋服、それから眼鏡が置いてある。
「……これ」
添えられたメモに“おはよう 飲み物は冷蔵庫にある 夕方には戻るからいい子にしてろ”と書いてあるのを読んでから、壁時計へと視線を移すと午前10時半だった。
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