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 玲の席はまだ空いているが、休みと決まったわけではないから、とても冷静じゃいられない。  ――俺と玲が付き合ってるって……。  担任の声も上の空で、遥人は思考を巡らせる。玲本人がそんな話をみんなに吹聴したのだろうか?  ――そんなはず……ない。  表向き彼は人格者だし、議員の息子という立場上、そんなことを公言したりはしないはずだ。  いくら、何があっても金で揉み消せる力を持っているにせよ、こんな事で自分の価値を下げるような真似はしないだろう。  ――考えても……無駄だ。  そう、いくら考えても仕方がない。自分と玲では目線が違う。例えば同じネコ科であっても、家猫と豹が違うように、同じ人間だが彼の思考を想像することなどできやしない。  ――家猫っていうより、インパラだ。  自虐的に心で呟き深い溜め息を吐いた遥人は、ここでようやく周りの様子が変わっているのに気が付いた。  ――勉強……しないと。  考え込むうちいつのまにかHRは終わってしまっていたらしい。数学教師が教壇へと立ち授業をしている姿を目にして、遥人は慌てて教科書を出した。  ここ一ヶ月ほど、まともに授業を受けていないから、だいぶ先へと進んでいる。中間までに追いつかなければ、かなり立場が悪くなるだろう。 『3位が最低ラインなんだろう?』  ふいに、数日前……大雅に言われた言葉が頭の隅を過ぎる。何故彼がそれを知ってるのかという疑問は感じたが、事実その通りだったから、遥人は内心酷く焦った。

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