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大雅の家での数日間は、信じられないくらい穏やかに推移した。
以前と同様、離れと呼ばれる日本家屋で、大雅以外の人とは会わずに過ごしたが、彼自体も食事以外は殆ど姿を現さなかった。
ようやくまともに食事ができるようになったのは5日目で、その様子を見た大雅から、来週には学校へ行くと言われたときには、すぐに返事をすることができず震え上がった遥人だが、その理由を説明されて、うなだれるように頷いた。
『もし留年ってことになったら、お前の爺さんが黙っていないだろう』
どうしてそれを知っているのか途切れ途切れに遥人が問うと、『調べれば分かる』と答えた彼が頭をポンと撫でてくる。
なぜ自分を調べたのかと聞きたかったが、続けて大雅が喋りだしたから疑問は口にできなかった。
『お前があの学校の経営者の血縁だということは、殆どの生徒が知っている。ただ、勘当された分家筋だと誰かが噂を広めたせいで、イジメの標的になりかけた。お前、喋らないし貧相だから、格好の餌食だったんだろうな』
話の内容ももちろんだが、こんなに喋る大雅を見るのは初めてだから驚いた。
『あのときは、助けてくれてありがとうございました』
『礼はいい。それより、このまま学校へ行かなければ、間違いなく留年する。それに、定期テストで3位以内に入らなければ、大学を選ぶ権利が無くなる。違うか?』
本当に、大雅の話す通りだった。御園の一員になったのだから、最低限大学へは入るようにと言われている。
最初は、この高校からエスカレーター式で上がれる私立大学へ行けと言われたが、『そうだな……2学期までの間のテスト、全て3位内に入ったら、お前の好きな大学へ行かせてやる』もうひとつ、そんな条件が祖父から出された。
きっと、御園の息がかかった場所へと遥人を閉じ込めておくのが彼の目的で、微かな希望を持たせたのは、気まぐれか遊び感覚だろうが、このまま祖父の思惑通りに生きていくのは嫌だったから、"ガリ勉"と陰口を叩かれても今まで必死に勉強してきた。
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