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「あのアパートに、何か大切な物でもあったのか?」
遥人が椅子に腰を下ろすと、向かいの椅子へと座った大雅が再度質問をしてきたから、真剣なその視線に気圧され答えぬ訳にはいかなくなった。
「これ以上、お世話になるわけにはいかないので、通帳を取りに行こうと思ってました」
逃げる計画は話せないけれど、嘘はひとつもついていない。今の遥人には自由な時間と多少の資金が必要だった。
「自由になる金が欲しいってことか。その通帳にはいくらくらい入ってたんだ?」
「え?」
「その額をお前に渡す。別にやる訳じゃない。後でアイツから取り戻せばいいだけだ。そうすれば遠慮もいらないだろう?」
思わぬ言葉に目を見開くと、「違うのか?」と僅かに首を傾げた大雅が聞いてくる。
「いえ、でも……そこまでして貰うわけには……」
「なら、アイツに返してくれと言いに行くか? 俺には他に方法が無いように思えるが」
淡々とした口調で言われ、遥人は泣きたい気分になった。大雅の言葉がキツかったからという訳ではなく、一人では何もできない自分がもどかしくなったのだ。
「……確かに、その通りだと思います。あの、ひとつ聞いても良いですか?」
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