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「なんだ?」 「宮本さんは、どうして俺にこんなに良くしてくれるんですか?」  ずっと抱き続けてきた疑問を、この機会にぶつけてみる。と、「そうだな……」と呟いた彼は、少し考えるそぶりを見せた後、「行きがかり上……ってところだ」簡潔にそう告げてきた。 「それってどういう……」 「そのままの意味だ。深く考える必要はない」  威圧感はないけれど、これ以上は聞けない空気を低い声音がはらんでいたから、はぐらかされた気はしたけれど遥人は小さく頷き返す。 「とりあえず、これだけあれば当面は足りるだろう?」  すると、彼が自分の財布を取り出し札をバサリと目の前に置いた。 「こんなには……」 「心配しなくても、返して貰うから大丈夫だ」  十枚以上はありそうなそれに遥人が声を詰まらせれば、手を伸ばして来た彼が髪の毛をクシャクシャと撫でてくる。 「お前、なんか小動物みたいだな」  喉を鳴らして笑った彼の表情がすごく優しく見えて、遥人の体を包み込んでいた緊張感が解けていく。 「これから買い物に行きたいなら、俺も一緒に行く」 「いえ、今日は大丈夫です。その時にはお願いします」 「そうか」 「あとこれ、お借りします」  深々と頭を下げて遥人が礼を言葉にすると、「ああ」と短く答える声が頭の上から響いてきた。  この時遥人が顔を上げれば、彼の表情の僅かな陰りを感じたのかもしれないが、見えていないから感謝の気持ちしか抱かない。

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