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『最初は裏方で仕込みの手伝い。そのうち接客もしてもらうって流れだから』
求人誌にも書いてあったが、落ち着いた雰囲気の食事処だという話で、遥人が未成年ということは問題ないと言ってくれた。
『俺も昔一人で家を飛び出したクチだから、同じような奴を見ると放っておけないんだよ』
40代半ばだという男が語った内容を、信用しきった遥人は何度もその男へと礼を告げた。
営業時間は6時からだから、とりあえず今日は夕方の5時に待ち合わせ、それから職場を見せて貰って、合わないようなら辞退しても構わないと言われている。
今はまだ昼前だから、とりあえず外を散策しようと遥人が思ったちょうどその時、突然部屋のドアがトントンと規則的にノックされた。
――まさか。
嫌な予感が頭を過ぎり、一瞬にして青ざめた遥人は、足音を立てないようにドアの傍へと歩み寄る。
それから、意を決して魚眼レンズをのぞき込み、そこへと映る人物を見て今度は肩の力を抜いた。
「お休みのところすみません。換えの部屋着を置き忘れてしまったので、お持ちしました」
フロント係の女性の姿に遥人は安堵の息をつき、何の疑いも持たず内鍵を外してドアを開いてしまう。
「すみません、ありがとうございま……」
礼を告げながら差し出した腕をいきなり誰かに掴まれて……驚きのあまり声を失った遥人はその場に崩れ落ちた。
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