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――だとしたら、俺は違う。
「俺は、御園の血縁じゃない。なのに、どうして……」
「それは、今俺が話すことじゃない。お前を抱いたのは御園とは関係ない。そうしたかったからだ。だから、怒ってくれていい」
ようやく放った質問にも、納得できるような返事は貰えなかったが、聞き返すことも出来ないまま、遥人は静かに涙を流す。
――俺は、臆病者だ。
“抱きたいから抱いた”という大雅の言葉の真意も聞けない自分が心底情けなかった。
そればかりか、無理矢理犯されたと言っても過言ではない状況なのに、嫌悪感や恐怖心は微塵も胸に抱いていない。
――だって……俺は……。
恋愛感情なのかどうかは分からないが、遥人はずっと大雅に好意を寄せていた。それは、一年生でイジメにあいかけた自分を救ってくれたからだが、孤高に見える彼と自分を重ね合わせた結果でもある。
彼の行為は言葉も少なく激しいものではあったけれど、体へと触れるその指先には、労るような優しさがあった。
「学校、行くよな」
「……っ」
考えに深く耽っていると、耳たぶへ軽く歯を立てられ、たったそれだけで遥人の体を甘い痺れが這い上がる。
「お前が行く大学に俺も行く。だから、それまで……」
言葉はそこで途切れてしまい、耳に届きはしなかったけれど“我慢しろ”と言いいたいのだと遥人は瞬時に理解した。
大人びて見えているけれど、大雅もまだ未成年だ。そして、遥人自身にもまだ一人で立つ自由が与えられていない。
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